【書評】中小企業のためのM&A徹底活用法(分林 保弘)


【著者紹介】
分林 保弘(わけばやし やすひろ)
昭和18年生まれ。立命館大学経営学部卒業後、日本オリベッティに入社。同社会計事務所担当マネージャーを経て、1991年日本M&Aセンターを設立(現会長)。「会計事務所」「地域金融機関」「商工会議所」等の情報マッチングをするプラットフォームの概念を標榜し、中小企業M&Aの社会的意義を理念として確立。

NTTデータ ジェトロニクス株式会社(旧日本オリベッティ)
http://www.nttdata-getronics.co.jp/

日本M&Aセンター
https://www.nihon-ma.co.jp/

【書評】
他にM&A関連の本を読んだことがあるのであれば、重複する内容が多く特にこの本ならではの内容というものは少ないかもしれないが、N&A手法の説明、実例、企業評価まで網羅しており、初級の一冊としてはおすすめ。第目に「徹底活用法」とあるとおり様々のM&A手法の事例が多く、事例そのものはオリジナルなものなので事例集としても使える。実際には使われるケースが稀であるような手法(LBOなど)にも言及していて事例もあるのは実践的ではないものの、網羅性はさすが。ただ、とても誇らしくまえがきの事例に入っている「ワタミ」によるタクショクのM&Aの紹介部分は個人的にはなかったほうがよかった。ビジネスなので仕方がない面は理解できるが、特に利益に困っているわけでもない日本M&Aは「ワタミ」を素晴らしい企業と考えていることは残念。

【抜粋/まとめ】
■後継者問題の解決策としての4つの選択肢
1.親族または社員(EBO)・役員(MBO)へ承継する
2.株式を上場する
3.会社を廃業して清算する
4.第三者へ譲渡する(M&A)

■従業員に会社を継がせる(EBO)場合の問題点
企業には資産もありますが、負債もあります。会社の資産だけでは担保が足りない場合、社長が自宅等の担保を提供するのが日本では通常です。また、社長が個人保証をするのも一般的です。
従業員に会社を継がせる場合、以下の様な問題が有ります。
以下の4つのハードル全てをクリアしなければ「後継者」にはなりえないのです。
1.社員が株式を時価の数億円で買うことができるのか
2.個人の自宅等資産の担保力があるのか
3.万一倒産した場合に、自宅および個人の資産を処分するだけでなく、自己破産を余儀なくされる可能性もある「個人保証」を本当にするのか
4.社員として優秀なだけでなく、財務の知識や経営の知識、統率力等、経営者としての適正と能力があるのか

■LBOのしくみとその特徴
LBOとは「レバレッジド・バイアウト」の略称で、欧米の企業買収でよく利用されるM&A手法です。この手法の特徴は買収資金の手当の仕方にあります。具体的には、買い手が買収するための持株会社(ペーパーカンパニー)を設立し、譲渡企業の資産や将来のキャッシュフローを担保に買収資金を調達することで買収資金の多くをまかない、買い手は少ない自己資金で買取が可能になる方法です。もっと簡単にいうと、LBOは「借入金で企業を買収し、その買収した企業の収益や余剰資産の売却等により借金を返済する」手法と言えます。このように、小さな力でおおきなものを動かす(レバレッジ)に似ていることから命名されたLBOは、1980年代の米国で代表的な買収手法として一斉を風靡しました。しかし、金融機関からの過度の借入等の負債を抱え、買収後に倒産するケースが相次ぎ、また、M&Aが本来の経営戦略から離れた、いわゆる「マネーゲーム化」したことに対する批判と反省から、LBOは1990年代には入り下火になりました。ただ、適度なレバレッジを効かせたM&Aの手法としての有用性は失われておらず、現在も有力なM&Aの手法として活用されるようになっています。
一方、日本では最近までLBOによるM&Aはほとんど実績がありませんでした。それは第一に不動産担保融資が中心の日本では、これから買収しようとする会社の資産や、将来のキャッシュフローを担保に融資するという手法になじめなかったこと、第二にLBOのスキームに必要な持株会社の設立が独占禁止法で禁止されていたことに原因が有ります。しかし、法制度の改正・整備が進み、持株会社が解禁され、さらには日本企業を対象とした内外の機関投資家等によるLBOファンドの設立等により、その活用の道が拓かれました。最近では、LBOも新しい買収手法として注目され始め、大企業ではかなり利用され、さらに非上場の中堅企業でも活用され始めています。

■日本の敵対的TOB
昭栄に対する村上ファンドのTOB、ユシロ化学工業やブルドックソースに対する米国のファンド・スティールパートナーズによるTOBといった内外のファンドによるTOB、さらには王子製紙による北越製紙へのTOBなど、日本でも敵対的といわれるTOBが行われるようになりました。そのいずれも失敗に終わっていますが、TOBがM&A手法のひとつとして本格的に活用される時代に入った証左ともいえるでしょう。2010年アステラス製薬による、米製薬会社OSIファーマシューティカルズへの敵対的TOB(投資負担は重いが成功)等、日本企業に寄る海外企業のTOBも国内市場縮小の先行き不安により増加傾向にあります。

■M&Aによるプラスαの要素
・市場の成長性
・市場シェア
・業種(人気があるかどうか)
・販売ルート(商社経由かどうか)
・取扱商品(単一商品か複数商品か、人気ブランドか、ライフサイクルはどうか)
・商品開発力
・得意先・仕入先の数及び取引金額
・下請けか否か
・経済情勢・金融情勢
・社長の経営理念による会社の特性

■中小企業の6つの分類とM&Aの可能性
1.カリスマ社長型
カリスマ型の場合は、社内的にも社外的にも影響力があって利益を多く出していても、それが社長に依存していることから、社長の引退による利益の低下が予想され、会社の統制にも不安が残るため評価は低くなる場合があります。

2.借入金依存型
日本の中小企業に多いタイプですが、借入金が大きい(または固定資産が大きい)ほど不動産の資産価値・設備の使用価値の下落リスクや支払利息負担のリスクが大きくなるため、評価は低くなります。

3.研究開発型
「うちには技術力がある」という社長に会うことがあるのですが、企業価値の評価に際しては冷静に判断することが必要です。中小企業でもスペースシャトルの部品をつくっているような優れた技術力を持っている会社もありますが、大企業のいう技術力とは数段レベルが低い場合もあります。また、「この技術は大企業もやっていない」と主張するような技術は、大企業からすると利益が薄いため、または効率的な製造ラインの自動化ができないためにやっていないケースも多いのです。さらに「この技術の特許を取っている」という社長もいますが、日本は世界有数の特許大国です。今後の収益獲得上、なかにはあまり重要でない特許もあるでしょう。発明好きで町の発明家のような開発オンリー(販売軽視)型の社長によく会うのですが、なかなか趣味とビジネスが結び付けられずもったいない気がします。ただ、実際に敬意を払うべき技術力を持っているところもありますので、技術の見極めが重要となってきます。

4.放任経営型
いい意味での放任経営、つまり従業員に権限委譲を積極的に進めることで、人材育成してきた会社の場合は社内でナンバー2以下が育っています。買い手が重要な役職に何人も人材を送り込まなくても十分やっていけるので、引継ぎがしやすいこともあり評価は高くしてもよいでしょう(通常、買い手には、買収会社に送り込めるだけの十分な人員の余裕がないのです)極端な話、社長不在、例えば社長はゴルフ三昧で会社にあまり出てこない等でも十分利益を出しており、会社が安定している場合は、M&A後の利益予想がしやすくなるので評価は高くなるのです。

5.人格者型
素晴らしい人格の社長の元では、いい従業員、取引先に恵まれていることが多く評価は高くなります。人望の篤い社長が経営している会社であれば「M&Aできておめでとう、今後とも買い手企業に協力するよ」といってくれる取引先が多いのです。

6.M&A不適格型
脱税等をしていたり、裏社会と親交があったり、品性下劣であればそもそもM&Aはできません。

■基本合意契約の内容サンプル
・有効期限
・1社独占交渉
・買収監査前の株価
・営業権評価額
・M&A実行スキーム
・譲渡企業が譲受企業に保証する内容
・譲受企業が譲渡企業に保証する内容
・買収監査の実行とその内容、監査に関する両社の協力
・買収監査結果の開示

■公私が分離しにくい資産の取扱
社長用の高級外車、ゴルフ会員権、絵画、別荘、骨董品等がこれにあたります。地元で商売を営むためには、信用の確保や接待のためにこのようなものが必要だったわけです。しかし買い手が買収したあとは、このような会社の運営に直接関係のないものや社長の趣味でそろえたものは不要となります。かといって、不当に低い額で評価するわけにもいきません。このようなものに限って社長の思い入れが強く、不当に低く評価すると気分を害して関係そのものも悪くなってしまいます。そこで、正当な時価で評価したうえで社長にM&A後に買い取ってもらう契約を行うか、退職金の一部として現物支給する方法がよくとられます。

■リスク回避法
買収監査をいくら正確に行っても、会社は生き物で毎日動いているため実態を確定することはできません。そこで、リスクと感じられる項目があれば「エスクロー」という手法でリスクを回避します。これは株価の20%ぐらいを売り手には支払わずに銀行に担保として預けておき、6ヶ月ぐらい経過してから実態を評価して清算するという方法です。

■日本のアドバイザー(仲介)の特徴
日本では欧米と比較して、M&Aが本格的に活用されてから歴史が浅く、また日本文化や独特な企業風土等から、ほとんどのM&Aが相手経営者との合意の下で行われる、いわゆる「友好的M&A」が主流です。資本の論理だけでは押し通す力ずくのM&A、すなわち「敵対的M&A」が仕掛けられた例は出てきてはいますが、結果的に成功した例は大変少ない状況です。そのため、国内企業同士のM&A、特に中堅中小企業を当事者とするM&Aにおいては、アドバイザーの多くが売り手と買い手の当事者双方の意見を調整しつつディールそのものをまとめ上げることを氏名とする仲介業務jを行う専門家、いわゆる「仲介者」の役割を果たす点が日本のアドバイザーの特徴といえます。

■M&A関連サービス提供者(金融機関系)
・都市銀行
大型案件、クロスボーダー取引案件が中心

・地方銀行
地域密着の中堅、中小企業が中心

・信金中央金庫、信用金庫
中小、零細企業が中心

・外国銀行
対象はクロスボーダーの大型案件だが仲介業務は行わない

■M&A関連サービス提供者(証券会社系)
大手
上場企業中心の大型案件、クロスボーダー案件

準大手
上場企業、上場予備軍が中心

外資系投資銀行
対象はクロスボーダーの大型案件だが仲介業務は行わない

■M&A関連サービス提供者(独立系)
大企業に特化しているところや中堅中小企業を対象としているところ等、さまざまなプレーヤーが存在。得敵の業種や地域に特化している場合もある

■M&A関連サービス提供者(監査法人、弁護士事務所系)
企業評価や契約書の作成、レビュー及び財務、法務の企業精査(いわゆる買収監査)等、専門分野で活躍する