【書評】社長!あなたの会社、じつは……高く売れるんです!!(大山 敬義)


【著者紹介】
大山 敬義(おおやま たかよし)
株式会社日本M&Aセンター常務取締役。
1991年、日本M&Aセンターの創業に参画。同社初のM&Aコンサルタントとなる。以来20年以上にわたり、100件以上のM&A成約実績をもつ。
あらゆる業界のM&Aをはじめ、グループ内の企業再編手続きの他、M&Aを活用した企業再生も多数手がける。金融機関・商工会議所などでの公園、寄稿多数。

【日本M&Aセンター概要】
株式会社日本M&Aセンターは中堅中小企業を対象としたM&Aを仲介実績No.1の会社。東証一部上場。当時、中堅・中小企業のM&A仲介専門会社として日本で初めての上場であった。
拠点は日本国内に5ヶ所(東京、大阪、名古屋、福岡、札幌)とシンガポールの計6ヶ所。
創業のきっかけは1991年に各地域の公認会計士・税理士が中心となり設立された「株式会社日本エム・アンド・エーセンター」。
2000年に日本アジア投資株式会社との合弁会社、日本プライベートエクイティ株式会社を設立。
2008年に株式会社矢野経済研究所及び、ヤノホールディングス株式会社を持分法適用関連会社化。
2012年にM&Aシニアエキスパート認定制度を、株式会社きんざい、一般社団法人金融財政事情研究会と共同で創設(2016年時点で有資格者10,000名突破)

日本M&Aセンター
https://www.nihon-ma.co.jp/

矢野経済研究所
https://www.yano.co.jp/

株式会社きんざい
http://www.kinzai.jp/

【書評】
M&Aで会社を売却する際のプロセス、売却しようと思うようになるきっかけから売却成立までを小説仕立てで説明した本。特に、当事者の揺れ動く気持ちの移り変わりを詳細に説明している部分と情報漏えいの部分が秀逸。M&Aは単なるモノの売買ではないということがよくわかる。各章の終わりには関連情報の解説もあり非常に分かりやすい本だが、題名は意味がわからず少し残念。マーケティング的なものなのだとは思うが、こういう煽る題名ではない方が似合う本。実際、文中にも「高く売れた」企業は出てこない。「高く売る」ことを最前に出したいのか、そうでないのかがぶれている気がする。まえがきにも「会社を高く売る秘訣」という見出しの文章があるが秘訣は出てこない。

【抜粋/まとめ】
■会社を高く売る秘訣(になっているかは別として)
じつは全く売れない会社というのはないのです。ただ当然それには条件があります。
それは「良い書いてと巡り会い、その相手と互いのニーズが一致すること」です。
あたりまえじゃないか、と言うかもしれませんが、それが意外とあたりまえではなかったりします。
相手がいないのではなく、いるかいないかは探す方向次第なのです。
つまり、相手がいるかどうか納谷うのではなく、自分の会社だったらどのようなニーズの相手がいそうなのかを考える、ということです。
正直な話、お互いのニーズがぴったり合う良い書いてと巡り合うことができたのなら、それだけでM&Aの成功は7割方決まったも同然なのです。

■会社を誰に継がせるか
息子や身内が会社を継がないのなら、親族以外の第三者が後を継いだらいいのではないか、中小企業のM&Aはそんな発想から生まれました。
じつは、バブル期にはたった6%しかなかった身内以外の第三者に会社を引き継がせるケースが、最近ではじつに40%とかくにまで増えているのです。

■事業承継は社長の交代だけではなく「オーナーと社長の交代」である
世の中の多くの経営者は、事業承継とは自分以外の誰かに社長をやらせることだ、と思っている節があります。しかしそれはとんでもない間違いです。事業承継の際には、じつは「オーナー」と「社長」の両方が交代しないとスムーズにはいかないのです。日本の多くの中小企業はオーナーが社長を兼ねている、いわゆるオーナー社長が一般的なので、このことをついつい忘れてしまいがちです。
父親から息子へのオーナーチェンジは通常相続あるいは生前贈与という形で行われますから、息子が継ぐときは株式の移転に関してあまり考える必要がありません。ところが、もし息子が会社を継がないとなると、とたんに事情が変わってきます。「うちは工場長や営業部長が優秀だからいずれ彼らにあとを継がせるつもりだ」という社長さんによくお会いしますが、大部分はいずれ社長をやらせよう、と漠然と考えているだけです。ましてや、具体的に株式を工場長さんや営業部長さんに移転させているケースはほぼ皆無といっていいでしょう。そうなるといざ世代交代を迎えたとき、個人の与信が足りなかったり債務保証が難しかったりして資金繰りが厳しくなる、あるいは株式を承継したオーナー一族と経営方針や配当を巡って争うなど、相続ならぬ争族で会社がガタガタになってしまうことも決して珍しくはありません。
こうした事態にならないためには、まず「事業承継とは、経営(社長)と所有(株式)の交代がセットになっているのだ」ということをしっかりと認識しておくことです。そして同時に「事業承継とは、資産だけでなく債務の小径でもある」ということも考えておかなければいけません。中小企業にはたいてい借入金もありますから、事業の承継者は当然借入金の返済に責任を負うことになります。
つまり、借入金を返すか、次の誰かが承継してくれるまで、社長を辞めることができない、ということです。サラリーマンの転職はやる気になれば簡単ですが、経営者はそうもいきません。個人で連帯保証をするということは、いわば自分の一生をすべて担保に入れてお金を借りているのと同じことです。金融機関もそのような社長の決意や情熱を見込んで融資をしているのです。中小企業の社長というのは、第三者から見ると、社長さん本人が思うよりずっと大変で責任が重いものなのです。

■M&Aに必要な資料一覧
【会社概要】
会社案内
製品・サービスのカタログ
定款
会社商業登記簿謄本
免許、許認可、届出の内容
株主名簿
議事録(株主総会、取締役会、経営会議等、添付資料含む)

【決算資料】
決算書・期末残高試算表・勘定科目内訳明細 3期分
法人税・住民税・事業税・消費税申告書 3期分
減価償却資産台帳(直近期末分)

【その他財務】
月次試算表(直近期1年分および進行期分)
資金繰表(実績および予定)
支払保険料内訳・租税公課内訳(総勘定元帳等) 3期分
採算管理資料(部門別・商品別・取引先別等) 3期分 要約したもの
売上内訳(部門別・商品別・取引先別当) 3期分 要約したもの
仕入内訳(部門別・商品別・取引先別当) 3期分 要約したもの
事業計画(作成していれば。5期程度の予測売上・利益・設備投資等)

【不動産】
不動産登記簿謄本
不動産賃貸借契約
固定資産税課税明細書

【人事】
組織図
店舗・事業所の概況
主要役員・部門長の経歴書
従業員名簿
社内規定(特に就業規則、給与・賃金規定)
退職金規定

【その他契約認可】
銀行借入金残高が一覧(返済予定表、差入担保一覧)
保険積立金の解約払戻金資料(直近期末時点の金額)
株式・ゴルフ会員権等の保有数量が分かる資料(取引残高報告書、現物集計等)
金融商品・デリバティブ(為替予約、スワップ、仕組債等)の最新時価資料
取引先との取引基本契約書
生産・販売委託契約書
リース契約一覧
連帯保証人明細票
株主間協定書(あれば)
その他契約・許可証

【オーナー】
住民票・印鑑証明書
インタビューシート

■売れる会社の条件
1.黒字であること。1、2期は仕方がないが、少なくとも3期以上連続で赤字になっていないこと
2.借入金が通常の営業で弁済できる範囲であること。そうでなくとも借入金の額が年商以下であること
3.まじめに経営していること。たとえば日常的に粉飾決算や不正経理をしていないこと
4.企業価値を大きく毀損する「簿外債務」がないこと
5.M&Aによってお互いに拡大する可能性がある業種、あるいは業界再編真っ最中の業界であること
6.取引先が分散していること

■売れない会社の条件
1.ここ3期以上継続的に赤字であること。あるいは最近売上が大きく落ち込み回復のめどが立たないこと
2.借入金が重いこと。特に借入金弁済のために新たな借入を繰り返す、いわゆる自転車操業の状態になっていること
3.3期以上連続で粉飾を繰り返していること。しかも経理がいい加減でその正確な内容がわからないこと
4.売上規模と比べて多額の「簿外負債」が存在すること。あるいは労使紛争、多額の裏保証、賠償金などの紛争にかかわる簿外債務が見込まれること
5.根本的なマーケットの縮小、構造の変化などで、M&Aをしても、存続、発展が見込まれる組み合わせが考えられない業界、または地域であること
6.取引先が一社に依存してしまっていること

■業界再編が進む業界
いまなら、調剤薬局、食品卸、医療器械といったあたりの企業は黙っていても買い手が就くほど非常に人気があります。また、それだけ買い手も多いので条件面でも相応の金額が期待できます。ただその一方で、業界再編が一段落すると一気にM&Aが冷え込む可能性がありますから、検討するなら早いほうがいいでしょう。

■規制緩和、または規制強化の行われている業界の企業
規制が緩和されると新規参入が増え、強化されるとついていけなくなった企業を中心に統合が進みます。このように法規制はM&Aの引き金になることが多いのです。プロパンガスの小売業、介護関係などが代表的な業界です。また最近では、病院やクリニックなどのM&Aも急増することが予想されています。これらの業界はある意味勝ち負けが明確につくことが多いので、悪くなる前に大手の傘下に入るという生き残り戦略としてM&Aが多用されるのです。

■得意分野に特化している企業
一社で複数の業態をもつ年商5億円の企業より、得意分野一つに絞っている年商2億円企業の方がじつは断然人気があるのです。よくメーカーさんで「図面があれば何でもできます」というアピールをされる企業がありますが、これも好ましくありません。たとえば「当社はチタンの微細加工が得意です」といった特徴がある方がはるかに買い手の興味を引くことが多いのです。

■不要な不動産を持つ企業
一昔前だとM&Aの目的のひとつに、有料な不動産の取得があげられていた時代がありました。しかし今はそうではありません。一部を覗いて不動産価格は下落が続いており、むしろ不動産は将来の含み損を抱え込むようなものだ、という認識さえ一部にはあります。工場の敷地や建物など営業を続けていく上で絶対に必要な不動産を除けば、できるだけ余剰不動産はない方が売れやすいです。

■会社の値段3種類
1.相続税など課税上の株価 = 親族間で取引するときの価格
法律で計算式が決まっているため、原則としては誰が計算しても同じ値段になります。

2.少数株式の株価 = 第三者との間で取引するときの価格(ただし経営権の移譲を伴わない)
当事者間での交渉が入りますが、まとまらずに裁判になった場合は裁判所の指名した公認会計士などが合理的値段を算出することになっていますので、ある程度の幅に収まるのが普通です。

3.M&Aの株価 = 経営権の移譲を伴う第三者との間で取引するときの価格
決められた価格というものはなく、極端な話当事者同士が納得していれば1円でも1億円でもかまわない。

■企業評価の方法3種類
1.会社の純資産に着目する方法(時価純資産価額法など)
2.会社の利益に着目する方法(DCF法など)
3.類似会社の株価に着目する方法(類似会社比準価額法など)

■時価への洗い替え
1.資産は「もし今売ったらいくらになるか?」
2.負債は「もし今払ったらいくらになるか?」

■売却価格に影響を与える将来リスクの例
1.係争中の裁判、あるいは裁判になる可能性のある紛争
2.脱税は申告漏れ、粉飾に寄る課税の恐れ
3.土壌汚染、騒音、アスベスト、煤塵などの公害問題
4.残業代、休日出勤手当の未払いなどの労務問題
5.キーマン社員の退職の恐れ
6.M&A後の取引先の剥落の可能性
7.設備の老朽化や開発など多額の追加投資の必要性
8.取引先の海外移転、新技術の普及などによるサービス、製品の陳腐化など、経営環境の激変の可能性
9.違法建築、境界未確定、既存不適格建築物、多額の修繕費など不動産の問題

■会社を売るときにいくら手数料がかかるのか
多くのM&Aのアドバイザーは着手金と成功報酬(リテーナーフィーとサクセスフィー)の2本立てになっているのが一般的です。その他にも着手金の代わりに月次の顧問料が必要だったり、着手金が無い代わりに交通費や実費、相談料を支払う形態のアドバイザーもいます。買い手についても、最初の情報提供は原則無料ですが、一定のステップに差しかかったとき、売り手の着手金に相当するフィーを払う必要があります。

■着手金の有無による違い
一般的には着手金を取るアドバイザーは前段階に力を入れ、さらに候補先を全国に広げてリサーチしている企業に多いといえます。逆に着手金は少なく、もしくは着手金無しで成功報酬のみというアドバイザーは東京周辺を中心に、できるだけマーケットを絞って低コストで候補先を探そうとする傾向にあります。

■中小企業のM&Aの3ステップ
1.案件化
売り手企業から提出された資料を分析し企業評価を行った後、足りない培養をヒアリングし詳細な企業分析を行う。その後、買い手向けの企業概要書(企業サマリー)の作成までを、通常1ヶ月から1ヶ月半かけて行う。
その後、ざっくりとした想定候補先のリスト(ロングリスト)を作成し、その中から好ましくない企業を除外し、優先順位をつけて順次アプローチしていく。

2.マッチング
リストを元に実際に候補先にアプローチしていく。その時に提供する情報は売り手企業のノンネーム情報。
リストから実際の商談に至る企業の割合は実際には10%もあれば良い方で、平均して1~3社が同時に並行して進んでいれば順調にステップが進んでいるとイメージして問題無い。
トップ面談等も行い、基本合意契約が締結できた後は一定期間(1ヶ月から3ヶ月)その企業が独占的に交渉できる権利を持つ、そして買収監査(DD)へと進んでいく。

3.クロージング
DDによって出てきた情報を元に価格の調整を行い問題がなければ最終契約。スタートから早ければ2ヶ月通常は6ヶ月から1年ぐらいの期間がかかる。

■買い手のニーズは明確に
「なんでもいから不動産の情報があったらもってきてくれ」たとえば不動産屋さんにこうお願いしたら、店を叩き出されること請け合いです。「なんでもいい」というのはニーズとは言いません。引越したいので会社から30分以内のJR沿線のマンションで、80平米以上のファミリータイプの間取り、価格は3000万円以内とか、国道沿いで駐車場は10台確保できる場所、とか目的と条件がないと探すに探せないのは当たり前のことです。
ところが、M&Aの世界だとなぜかこの当たり前でない買い手が多いことに驚きます。なんのためにM&Aがしたいのか、経営戦略と、そのじつgンのためにどのような企業を買収したいのか、その条件をある程度きちんと固めておくことが先決です。

■買い手は無用な詮索はしない
たまにM&Aの案件を紹介されると、秘密保持契約を結ばずにあれこれ聞き出して、どの企業なのか当たりをつけようとする企業がありますが、これは絶対にやめるべきです。M&Aのアドバイザーは秘密保持に対してとても強い注意を払っていますので、このような買い手は要注意と見なされて今後案件の紹介がなされなくなってしまいます。

■専任でない案件は注意
場合にもよりますが、アドバイザーが専任以来を受けている案件以外はまじめに検討すべきではありません。M&Aは本来秘密保持が非常に大事なので、よほどの事情がなければあちらこちらに無差別に情報を流すことを極力避けるもので、専任のアドバイザーがいないのは何か裏がある可能性があります。

■買い手の目的3種類
1.成長戦略
M&Aにより売り手がもっている売上、得意先、人材、技術、伝統などを承継し、それをテコにして事業の拡大を図る戦略。

2.業界再編
生き残りのためのM&A。

3.二世創業
M&Aにより新しい血を入れて古くなった自社のビジネスモデルを根本的に変える。

■トップ面談で大事なこと
1.目的は相手の経営者がどのような人物であるか見極めること
2.相手も同じ目的で来ていることを忘れずに、TPOを守って相手にせすること
3.お見合いの席上で『絶対』に条件交渉をしてはいけない
4.他の候補先があっても、そのことを一切話してはいけない
5.自社の特徴、良いところをアピールするようにすること

■トップ面談のステップ
1.売り手が上座、買い手が下座に座り、仲介者の進行でスタート
2.進行役の仲介者の挨拶
3.買い手側の挨拶。どのような会社なのか、どうして今回買収を希望しているのか、M&Aはどのようにしようと思っているのかなどを簡潔に
4.売り手側の挨拶。愛車の紹介、特に創業からの歴史を重点的に。どうして会社を譲渡しようと考えたかという理由も忘れずに、会社のアピールポイントも必ず加える
5.質疑応答。進行役が話を振る場合もあるが、そのときはそれぞれの会社の特徴を相手に理解させる目的のことが多い
6.工場などがあれば、あわせて工場見学も一緒に行うことが多い
7.工場などを見学した場合は、その後見学を踏まえての質疑応答
8.今後のスケジュールなどを再確認し終了

■売り手の不明な点は事前にクリアする
通常、たいていのことうぁアドバイザーに問い合わせをすればわかります。それすらせずに、細々としたことを思いついたように社長に聞こうとするのは非常に悪い印象を残します。お見合い(トップ面談)は何を確認したいかを明確にするため、売り手、買い手ともに準備が大事です。とりあえず会ってみて、その場で対応方法を考えればいいというスタンスだと、二度目の面談はないと思って下さい。

■未払い残業代には注意
未払い残業代はここ数年不景気の影響や、マスコミの報道もあって訴訟例が急増し、M&Aの世界でも一躍注意ポイントのひとつにあげられるようになりました。36協定を結んでいないにもかかわらず社員に残業を強いることは法令違反となりますが、中小企業では実体として行われていたりします。また、慣習的に営業手当や住宅手当など各種の手当の形に残業代を含んでいるような形態をとっている企業もありますが、いざ労働争議となれば労働基準監督署は賃金規定に照らし合わせて判断します。つまり、賃金規定にちゃんと記載されていない限り、残業代は未払いだと判定されてしまう可能性があります。たいていの場合会社側には勝ち目がなく、まず間違いなくそうなります。残業代の未払いは最大2年前までさかのぼって請求されますから、控除のように沢山の人をつかっている職場ではあっとういう間に1千万、2千万円という金額になることも珍しくありません。
このほか、休日出勤の際の割増を法定通りにしていなかったり、制服の着替えの時間や月曜日の朝礼の時間を労働時間にふくめていなかったりと、数え上げればきりがありません。しかも、未払い残業代については、今、経営陣と従業員との関係が良好で問題になっていなかったとしても安心はできません。たとえばM&A後に買い手のマネジメントの仕方に問題があって労使関係が悪化したとしても、未払い残業代は過去2年にさかのぼって請求できるため訴えられる可能性が十分にあります。
少しでも不安がある場合は早い段階で社労士などの専門家に相談し、未払い残業関連のリスクがあるかどうか確定させておくことをおすすめします。早い段階でなら実体にあわせて就業規則を改定することができますし、多少のリスクなら株価で調整することでヘッジできるからです。

■企業年金にも注意
厚生年金基金とは基礎年金、厚生年金に上乗せする形で将来の給付を約束する企業年金の一種ですが、578の厚生年金基金のうち約4割の212基金が積立金ゼロ、5割超の314基金が年間の掛け金より支給額が多い状態が続き(2011年)、全体で1兆1000億円(厚生年金基金意外のすべての企業年金を合算すると8兆円以上と言われています)もの積立不足が生じているという凄惨な状態です。しかし積立金が足らないからといって企業年金を払わなくていいということにはなりません。
足らない部分は厚生年金基金に加盟している会社が自腹を切って補填しなければなりません。しかもこの金額たるや想像以上の額で、たとえば業界慣習的にほとんどの企業が年金基金に加盟していたタクシー業界などはM&Aのために基金を清算しようとすると、50台前後のタクシー会社で軽く数千万円から億単位の出費となります。過去経験したM&A時の最大の不足額は4億円でした。こうなると株価がつくどころか、補填した瞬間に倒産です。残念ながら現状、厚生年金基金の積立不足については特効薬的対策がありません。あるとすれば問題を把握して、今すぐ基金を脱退するということぐらいでしょうか(脱退時点での補填は必要です)いざ会社を譲渡しようとしたらあまりにも補填金額あg大きいことがわかり、泣く泣くM&Aを断念したということもあります。

■M&Aで注意したい不動産トラブル
1.土壌汚染の可能性
製造業だけでなく、ガソリンスタンド、大型焼却炉、クリーニング業も注意が必要です。

2.1975年以降に建設されたホテル、工場、倉庫などの大型建築物
アスベストを使用している可能性があります。

3.10階以下で床面積3000平米以下のホテル、旅館、商業施設など
スプリンクラー未設置の可能性があります。将来の設置義務化や条例違反のリスクがあります。

4.建築確認済み証のない建物
追加工事などによる建築基準法違反、既存不適格建築物のリスクがあります。

5.1981年以前に建てられた建物
旧耐震基準で建てられたため耐震性リスクがあります。

6.築30年以上のホテル、旅館、商業施設など
今後の老朽化で多額の維持管理コスト、追加階総費用(キャベックス)がかかる可能性あり。改修費用を取得費用に織り込んでおかないと思わぬ出費のリスクあり。

7.権利書のない不動産
権利書がないと将来の売買ができません。かならず所在を確認してください。

8.複数の抵当権、短期賃借権(改正法以前)、差押、ノンバンクからの抵当権などが登記されている不動産
会社の業績が悪化している可能性があります。

■売り手のマリッジブルー
順調に進んでいるM&Aプロセスであっても、必ずどこかで迷い、そして決断をしなければならないときがやってきます。特に基本合意手前から不安は急激に高まり、買収監査前後にピークに達します。本当にM&Aしていいものだろうか、もっと良い相手がいるのではないだろうか、売却価格が安すぎるのではないか、やっぱり息子が継いでくれるのではないか、この段階で様々な思いが交錯し、ときには全部を投げ出したくなる気分に襲われることがあるのです。
この売り手独特の心境をM&Aの専門家たちは、結婚式前の不安な心境になぞらえて「マリッジブルー」と呼ぶことがあります。マリッジブルーのきっかけは色々ありますが、そのひとつに「誰かに売却について相談する」ことがあります。絶対誰にも何も相談してはいけないというわけではありませんが、基本的にM&Aは相談して決めることではないと認識していただきたいです。日本ではM&Aを何回も経験した人がめったに居ないですし、弁護士や公認会計士のような専門家でさえ、M&A全体の意思決定にかかわったことのある人は数えるほどしかいません。つまり、相談相手は基本的に全員素人なのです。自分の人生と自社の命運を左右するようなことを素人に相談して、よい結果が期待できるでしょうか。もし、マリッジブルーに襲われたら、もう一度初心に立ち返って、なぜM&Aをしようと考えたのかを思い返し、どうすることが会社にとって一番良いことなのか客観的に見つめ直すことで、おのずと結論が見えてきます。

■株式譲渡のクロージングプロセス例
1.取締役会に事前に株式譲渡申請をする
2.取締役会は株式譲渡を承認し、譲渡承認書を交付する
3.売り手と書いてはM&Aの最終契約(株式譲渡契約書)を結ぶ
4.買い手は株式譲渡代金を売り手に支払う
5.売り手は代金と引き換えに株券(またはそれに代わる表章物)を引き渡す
6.株券の引渡しと同時に印鑑、通帳など会社の重要物品を買い手に引き渡す
7.買い手は株券と名義書換申請書を併せて取締役会に提出し、株主の名義書換を行う
8.新たな株主名簿を作成する
9.取締役会は新たな役員を選ぶための臨時株主総会を招集する
10.臨時株主総会で買い手は新たな役員を専任する
11.取締役会を招集し、取締役の中から新たな代表取締役を選任する。
12.新たな役員、代表印などの登記を行う

■ディスクローズのシナリオ例
1.調印式当日の月曜日の夜に必ず全従業員を集めて、売り手の社長自ら発表を行う
2.口頭だけでなく、社長の思いを綴った手紙を全員に渡す
3.翌朝、売り手、買い手の両社長が出席し、今度は買い手から自社の紹介とともに、社員全員の継続雇用と待遇の維持を名言する
4.買い手の営業担当の社員1名を売り手に常駐させ、売り手社員との交流をはかる
5.金曜日の夜、両者幹部、および社員との交流会(食事会)を行う