【書評】トップM&Aアドバイザーが初めて明かす 中小企業M&A 34の真実(藤井 一郎)


【著者略歴】
インテグループ株式会社 代表取締役社長。
早稲田大学政治経済学部政治学科を卒業後、三菱商事株式会社に入社。台湾・中国市場のん自動車関連プロジェクトに従事。その後、全額学費免除の奨学金を得て、米国サンダーバード国際経営大学院にてMBAを取得。米国シリコンバレーのコンサルティング会社Business Cafe, Incにて現地ソフトウェア企業の日本進出をハンズオンで支援。日本へ帰国後、フリービット株式会社での海外事業開拓マネージャーを経て、株式会社サンベルトパートナーズの取締役に就任。
その後、会計士、弁護士らとM&A仲介・アドバイザリーのインテグループ株式会社を設立し、代表取締役社長(現任)に就任。中堅中小オーナー企業、上場企業、投資ファンド等を顧客に多くのM&A案件を手がける。年間成約数は日本トップクラス。

フリービット株式会社
http://freebit.com/

株式会社サンベルトパートナーズ(廃業?)
「サンベルトパートナーズ」は、戦略的M&A立案,業務・資本提携のアドバイザリー,事業再生業務を通じて、企業の経営者、株主、その他の利害関係者の栄益に寄与し、後継者難の解消、事業継承、企業競争力の向上と起業家精神の高揚に貢献すべくサービスを提供しております。

【インテグループ概要】
中小企業のM&Aに特化した「M&A仲介会社」。料金体系は『完全成功報酬制』を採用。着手金、リテーナーフィー(中間金)等は一切無く、M&Aが成立した場合のみに報酬が発生する。社名の Integroup とは Integrity と Group を併せた造語で、Integrity とは裏表がなく首尾一貫していること、思考、言葉、行動の3つが一致していること、そこから「誠実さ」を意味する言葉である。

インテグループ株式会社
https://www.integroup.jp/

中小企業のM&Aにテーマを絞り、売り手、買い手、仲介者の実体はどうなっているかを、業界の裏事情を含めて教えてくれる本。
著者が代表取締役を務めるインテグループが中小企業のM&Aを専門としていることもあり「大企業と中小企業のM&Aの違い」について詳しく書かれていて分かりやすい。「仲介会社にとっては知られたくない不都合な真実」についても多く言及しているが、実際にはそのほとんどが「インテグループ以外の仲介会社にとっては知られたくない不都合な真実」である。インテグループは『完全』成功報酬型であり、「仲介会社はこうあるべき」という姿はインテグループのビジネススタイルへの誘導に読める。著者が「もともと異業種出身で金融業界のヒエラルキーには属していないので、業界の先輩諸氏に遠慮すること無く自由に書くことができる」こともあるのだろう。あと、表紙にインパクトがあって印象に残る。
「これまでの教科書的なM&Aのホントは一線を画し、なるべく専門用語を使わず、一般のビジネスパーソンにも理解していただけるように」とあるとおり、非常に読みやすく、内容の濃さの割にあっという間に読めてしまう一冊だが、文章(文才?文体?)がいまひとつで繰り返しや冗長的な表現が少し気になる。

■中小企業のM&Aは「友好的M&A」しかない
オーナー社長の中小企業のM&Aにおいては、敵対的買収や乗っ取りは基本的にはありえません。そもそも敵対的買収の「敵対的」とは社長等の経営陣に対して敵対的ということです。つまり、敵対的買収とは社長等の経営陣が反対しているにもかかわらず、買収をしかけることです。経営陣が反対しているにもかかわらず、買収が成功するときときのは、売り手の株主が賛成して株式を売り渡す場合です。このような敵対的買収は、株主と経営陣が別で、いわゆる(株式の)所有と経営の分離が行われている上場企業等においてはじめて起こりうる現象です。
未上場の中小企業では、基本的に社長等の経営陣や社長の親族が株主であることがほとんどです。M&Aというのは最終的には売り手の株主がその是非を判断するものですが、社長等の経営陣イコール株主(オーナー社長)であれば、経営陣が反対する敵対的買収というのは起こりえません。
通常、中小企業が対象となるM&Aは、オーナー社長と買い手企業とが、譲渡の条件や今後の会社の運営方法について協議し、お互い同意した上で成立します。したがって、中小企業のMA&というのはほぼ100%友好的な買収となります。

■中小企業のM&Aは「国内企業同士」がほとんど
中小企業の経営者はオーナー社長が多いわけですが、日本企業ではなくあえて海外企業に会社を売却したいというオーナー社長はほとんどいないので、海外企業が日本の中小企業を買収するというチャンスは極めて少ないのが実情です。インテグループにも多くの中国等のアジア企業から、日本の技術力のある会社を買収したいといの問い合わせがありますが、売り手側の日本の中小企業のオーナー社長が、海外企業への譲渡を好まない場合がほとんどです。やはり、日本の中小企業の社長には、海外企業には技術・ノウハウを流出させたくない、人員削減や取引先の変更等の抜本的な改革を行う可能性の高い海外企業には、会社を売却したくないというマインドが強いようです。

■中小企業のM&Aは上場企業のM&Aと異なるリスクがある
未上場である中小企業は一般的に監査を受けていません。内部統制もきちんとできているところはほとんどありません。したがって、この点では、中小企業の買収は上場企業を買収することに比べてリスクが高いといえます。
大企業では各人が与えられた権限の中で組織として仕事をしていますが、中小企業は大企業と比べて従業員数も少なく、どうしても属人的に仕事をしてしまっています。これも買収後に社員が辞めるという可能性を考えるとリスクが高くなります。
しかし、反対に「買収価格」に関しては上場企業の買収のほうがリスクが高くなる側面もあります。上場企業というのは、株式市場で将来の収益性が加味された価格(株価)がすでについています。その上場企業を買収するには、通常市場価格に数十%のプレミアムをつけた価格でオファーしなければなりません。これは経営という支配権を得るために支払う割増価格で、コントロール・プレミアムと呼ばれます。
割増価格(プレミアム)をつけて買収するということは、買収後にそれに見合うシナジーが創出されてはじめて元が取れたことになります。これが上場企業の買収が「マイナスから始まるゲーム」といわれるゆえんであり、大きなリスクと言えます。
一方、未上場の中小企業の場合はそもそも株価に市場価格はありません。入札または買い手と売り手との間での交渉により買収価格が決まります。入札であろうが相対での交渉であろうが、買い手はプレミアムをつける必要はなく(そもそも市場価格がないのでプレミアムという概念もないといえます)、必ずしも大きなシナジーを出さなくても買収価格を上回る価値を創出できることがあります。
未上場企業のM&Aにしても、上場企業のM&Aにしても、どちらにしても必ずリスクはあるのですが、そのリスクが異なります。

■中小企業のM&Aは「仲介会社が関与」することが多い
中小企業のM&Aは「M&Aアドバイザー」ではなく「M&A仲介会社」が関与しているケースが多いです。上場企業が売り手の場合は、経営陣はあとで不特定多数の株主に訴えられないように、そのM&Aの手続きが適正化、また譲渡条件が妥当かが厳密に求められることになります。したがって、利益相反の可能性のある仲介ではなく、法的リスクを最大限回避するために、投資銀行等のアドバイザーをつけて、買い手と丁々発止の交渉をすることになります。中小企業のオーナー社長が売り手の場合は、少し極端にいえば、誰に譲渡しようが、いくらで譲渡しようが(ほかの株主がいなければ)社長ひとりが納得して判断すればいいわけです。したがって、フィーが高く、また議論が紛糾し交渉が長期化しやすいアドバイザーではなく、フィーが比較的リーズナブルで友好的に交渉がまとまりやすい仲介会社を使うことが多くなります。

■日本でM&Aはどのくらい行われているか
国内企業が関係するM&Aの件数を集計している調査会社があります。それによると、年によってバラツキはありますが、近年では年間1700件から2000件ほどとなっています。しかしこの東経は、あくまで新聞紙上で発表されたり、上場企業等がプレスリリースしたM&Aの件数を集計したものと思われます。
では、実際にはどれくらいのM&Aが国内で行われているのでしょうか。買い手企業が未上場企業であれば、プレスリリースしない場合がほとんどですし、仲介会社が関与せずに、売り手と買い手が直接交渉して、M&Aを実行しているケースも多くあります。ある日、中小企業のオーナー社長が知り合いの経営者に全株式を売却したとしても、株主というのは登記簿で公開されるものではないので、積極的に対外的に好評しなければ、このようなM&Aは外部に知られることがありません。
このように大部分の中小企業のM&Aが公表されないことを考えると、実際に行われているM&Aの件数は、公表されているより5~10倍以上あると推測できます。
日本には企業が約200万社(統計の仕方により上下)ありますが、少なくともその0.5~1%にあたる1万~2万件のM&Aが毎年行われていると思われます。
ただし、「取引金額ベース」では大型案件はたいてい公表されるため、公表されているものと実際では大きな違いはないと思われます。

■景気が良い時と悪い時、どちらがM&Aが活発か
中小企業のM&Aの件数はマクロでみると、景気動向に左右されます。そういうと、不景気のときのほうが業績不信の売り手が多く出てくるからM&Aが増えると誤解される方がいますが、それは違います。たとえ業績不振の会社が売却を希望しても、そのような会社をあえて買いたい人はほとんどいませんし、不景気のときは買い手の投資意欲が弱まるので、M&Aは成立しづらくなります。
それに対して、後継者がいない等の理由で会社の売却を決断する売り手は景気に関係なく出てきます。そうすると、好景気で買い手の買収意欲が強いときのほうが、買い手からよい条件提示が出てきて、売り手と合意に至りやすくなるのでM&Aの件数は増えます。

■M&Aという麻薬
M&Aによる買収を一度して、それで失敗して懲りてしまったという会社もありますが、多くの買い手企業は一度M&Aをすると、それ以降も積極的にM&Aを検討するようになります。一度失敗してもそれは授業料として考え、失敗から得た教訓をもとに再度M&Aにチャレンジする会社も多く、M&Aで成功スrベアそれに味をしめて、その後も積極的に買収を志向するようになります。うまくいけば、M&Aは成長戦略を実現するための手っ取り早い便利な手段ということがわかり、やめられなくなります。
もちろん、早く成長するために絶対に企業買収をすべきだというつもりはありません。むしろM&Aはリスクだらけともいえます。ただ、是非はともかく実体として、一度買収を経験をした企業は、その後も買収を続ける傾向があり、それがM&Aが増加する要因になっているということです。

■欧米と比較したM&A取引金額(対GDP比)
アメリカとヨーロッパ主要国のM&A取引総額の対GDP比は、国や時期にもよりますが7~10%程度です。それが日本では3~4%といわれており、今後倍増するポテンシャルを秘めているといえます。

■売り手と買い手はどちらが多いか
これは、ある一時点だけで見ると、圧倒的に買い手が多いということになります。なぜなら、売り手の会社は、決まりやすい案件であればすぐに複数の買い手と交渉に入り、比較的短期間に成約してしまいます。逆に、業績が悪かったり、条件が高すぎたりすると買い手がつかないので、そもそも売却支援ができない会社も多々あります。
では、一定期間内、たとえば1ヶ月間とか1年間とかで、売り手と買い手のどちらかの依頼が多いかというと、これはやや買い手が多いという程度です。時期によっては、売り手と買い手からの相談がほぼ同数ということもありますが、通常は買い手からの依頼が全体の55~60%といったところです。

■売り手は一途、買い手は移り気
いい感じで相手方との交渉が進んでいるときに、急に交渉のテーブルから降りるのはだいたい買い手で、売り手が突然やめると言い出すことはあまりありません。
中小企業のM&Aにおいて売り手はオーナー社長個人ですので、その個人の感情が大きく影響します。売り手にとって自らの会社を売却するということは一生に一度あるかないかのことであり、よくよく考えたうえでの決断です。相性も条件もよい買い手と出会うと、なんとしてもそこと話をまとめたいという気持ちになります。いま交渉中のところと破断に慣れば、また別の買い手候補と一からこのプロセスをやるかと思うと、精神的負担が大きく、早く話がまとまってすっきりしたいと考えるようになります。
一方、買い手と言うのは通常、個人でなく企業であり、感情で動くというよりも理知的な判断によって物事を決めていきます。いくら魅力的な会社だと思って買収交渉を進めていても、検討の過程で戦略と合致しないことがわかったり、ネガティブな要素が見つかったりすれば、比較的簡単に見送りということになります。M&Aに積極的な買い手であれば、複数の案件を同時並行で検討していることもよくありますし、ほかの案件を含めてより魅力的な投資対象が新たに出てくれば、すぐに乗り換えてしまって、交渉中の案件はいったん保留や見送りとなってしまいます。

■売り案件の多い業種
どの業種の売り手がとくに多いということはありません。主な売却理由である「後継者不在」「創業者利益の獲得」「先行き不安・業績不振」「経営の選択と集中」等は、どの業種の経営者にもあてはまる問題だからです。

■買い手に人気のある業種
特徴をまとめると以下のようになります。
・ストック型ビジネスで毎月一定の売上がある
・規模のメリットが働きやすい
・市場が伸びていて利益率が高い
売り手とは違って、買い手は業種によって多い少ないが比較的はっきりします。具体的な業種で言うととくに人気があるのは、調剤薬局、介護(グループホーム)、ビルメンテナンス等です。これらの業種は超売り手市場です。人気のある業種の会社でしっかり利益が出ていれば、売却は容易です。

■買い手が少ない(不人気)業種
特徴をまとめると以下のようになります。
・フロー型ビジネスで固定収入がない
・規模のメリットが働かない
・市場が縮小していて利益率が低い
製造業、サービス業という分け方でいうと、総じて製造業はあまり人気がありません。製造業はグローバル競争の中で海外製品におされ、日本全体が設備過剰となっている中で、あえて日本に工場を持つ中小メーカーを買収したいという会社はなかなかいないためです。

■M&Aの成功率とは
(M&A実行後の)成功の確率は半分とも3分の1ともいわれますが、いったい何をもって、誰にとって成功、失敗なのでしょうか。私はどの買い手企業にも適用できるM&Aの成功の定義や尺度はないと考えています。M&Aは当事者によって買収理由や戦略が異なるからです。買い手にとっては、買収の目的を達成できたかどうかによって成否を測るしかありません。また、仮にM&Aの成功率が3分の1だとして、それは新規事業への投資の成功率と比較してどちらがいいかという支店もあります。通常は新規事業は3分の1もうまくいかないので、それに比べるとM&Aは成功率が高いといえるかもしれません。

■会社を売却する5つの理由
1.後継者不在(23.5%)
2.創業者利益の獲得(27.5%)
3.先行き不安・業績不振(7.8%)
4.選択と集中(19.6%)
5.会社の発展・社員の将来(21.6%)
※括弧内はインテグループで成立した案件における統計、相談ベースの場合「先行き不安・業績不振」がもっと大きくなる

■会社売却のベストタイミング
一般論でいえば、業績が下がっているときは企業価値が過小評価されやすく、そもそも買い手を見つけづらいのは事実です。その反対に、業績が上向いているときは企業価値が過大評価される可能性があります。ただ、結局はオーナー社長の売却のベストタイミングは、業績の良し悪しにかかわらず、事業意欲が落ちてきた時と考えています。

■売れる会社は2割だけ
M&Aの解説書の中には「売れない会社などない」と書いているものもありますが、それは業界内部の人間からすれば明らかな嘘であり「売れる会社はあまりない」というのが真実です。
一般的に成功報酬のみの仲介会社は、なるべく無駄働きをしたくないため、売却支援を受けるかどうかの際にM&Aが成立する確率をシビアに見極めます。そのように厳しい目で見ると、売却できる可能性が高いと判断できる会社は、相談をいただくうちの2割程度です。

■売れる会社の条件
・売上が数億円以上ある(業種によっては1億円以下でも可能性はある)
・実質的な損益が黒字である
・借入金が適正水準以下で、債務超過でない
・ある程度一般的な業界・業種に属している

■こんな会社は更に売れやすい
・権限委譲が進んでおり、オーナー社長が(将来的に)抜けても業績に与える影響が限定的
・社内にノウハウが蓄積してあり組織的に仕事をしている
・決算数字が信頼でき、簿外債務もなく、経営管理がしっかりしている
・コンプライアンス上の問題がない
・売上、利益が成長または安定している(少なくとも構造的な赤字になっていない)
・自己資本比率が高く、借入金が少ない
・企業規模は大きければ大きいほどよい

■こんな会社は売れない
まず、売上が1億円以下でかつ利益がでていないとなると、ほとんど売却できる可能性はありません。また、売上は数億円以上でも、2~3年連続で利益が出ていない会社も売却は極めて困難です。ここでいう利益とは「実質利益」のことなので、過大な役員報酬や節税によって利益を出さないようにしているのは問題ありません。
借入金の適正基準は業界、ビジネスモデルによっても変わるので、なかなか一概にいうのは難しいのですが、年商の半分以上の借入金があれば、売却は非常に難しいといわざるを得ません。
従業員が数人程度で、従業員の属人的な能力に依存している会社も売却は難しいといえます。たとえば、コンサルティング会社やデザイン会社などです。社員が何十人もいれば、M&Aを機に社員が2~3人辞めても影響はほとんどないのですが、数人お会社で能力のある社員が辞めると、譲渡前の業績を維持することができないためです。
最後に、ニッチ過ぎる業種も売却が難しい場合があります。極めて特殊な分野のメーカーでかつ市場が伸びていない場合、このような会社とシナジーを発揮できる会社は少なく、売却先の候補としては取引先ぐらいになってしまいます。

■売るためのM&Aプロセス上の注意点
・適切に売却希望価格を設定する
・買い手からの質問に誠実かつ迅速に答える
・M&Aの交渉中も月次の業績を維持する

■売却価格は最優先事項なのか
売り手が高く売りたいのは当たり前と考えられがちですが、じつはどのオーナー社長も高く売りたいと思っているわけではありません。とくに後継者不在で売却する高齢の社長の場合は、価格よりも従業員、取引先を大事にしてほしいという思いのほうが強い場合が多く、全体で見ても3割程度の売り手は実際には価格にはそれほどこだわりはもっていないのです。

■売り手は正当に評価されたい
価格の絶対額には十分満足していたとしても、その価格が一般的な企業価値の相場から見て著しく低い場合は、不当に低く評価された、買い叩かれたということになり、感情的に売却に応じないことがあります。たとえば、売り手会社が利益を出しているにもかかわらず、買い手がその会社の純資産額を下回る価格で買収オファーをすれば、もともと価格にはそれほどこだわりを持っていないオーナー社長でも、そのような提案を断ることが多くなります。

■売り手はよいM&Aでありたい
「よい」というのは自分にとって条件的によいということではなく、残る従業員や取引先にとってよい、または世間体がよいM&Aということです。まだまだ日本では、売却イコール身売りと世間からみなされることもあるので、そのような目で見られないように、従業員にとっても雇用が安定し、待遇改善やキャリアアップがはかれるような相手先と一緒になることを望みます。取引先に対しても安定したサービスが維持され、世間に対しても大義名分が立つM&Aを望みます。

■売り手は早く決着したい
業績不振企業でなくても、いったん売却プロセスに入り、買い手との交渉が始まると、売り手のオーナー社長の心労は想像を絶するものがあるようで、多くの方が「早く決着してすっきりしたい」というようになります。これは当事者になってみないとなかなかわからないものだと思います。
トップ面談の席上で買い手からスケジュールの希望を聞かれると「とくにいつまでに売却したいという期限はない」と答えますが、これは額面どおり受け取ってはいけません。売り手は焦っていると思われると、何かすぐにでも売る理由があるのだろうと勘ぐられたり、買い叩かれたりするのを懸念し、買い手の前では本当は早く売却したいとおもっていても、そのように言わないことがあります。
また、交渉決裂が続いたりして売却プロセスが長期化してくると、時間をかけてもっと多くの会社にアプローチすれば、よい条件で売却できる可能性があっても、はやく決着してすっきりしたいという思いから、多少条件が悪くても現状のオファーを受け入れる方もいます。

■売却後の雇用について
「高値で売却できれば、あとは従業員がどうなっても構わない」とおっしゃるオーナー社長はひとりもいません。売り手の社長はみなさん譲渡後に従業員がリストラされないかを懸念されますが、(中小企業の場合)それほど心配はいりません。中小企業は大企業と違って通常余剰人員は抱えておらず、それぞれの従業員がその会社の中で不可欠の役割を担っています。中小企業は、少ない人数で業績をあげていて、その業績が買い手彼評価されて売却に至るので、逆に買い手から「従業員が辞めないようお願いしたい」といわれることがほとんどです。
大幅な人員削減をしないと利益がでないような会社の場合は、譲渡後に従業員がリストラされる可能性がありますが、そもそもそにょうな業績の悪い会社は、売却できる可能性が極めて低いといえます。

■従業員にはいつ開示するか
そもそも従業員や取引先に「事前相談」すれば、「会社をぜひ売って下さい」と社長を目の前にしていう人はいません。本進化どうかは別として必ず反対意見が出てきます。M&Aはある意味オーナー社長が独断ですべきもので、従業員や取引先に「事前相談」するのではなく、「事後」にしっかりと説明責任を果たすべきものだと考えます。

■上場企業はどれぐらいM&Aを検討しているか
現在、日本の上場企業の中で、M&Aによる買収を検討すらせず、完全自前主義を貫いているのは約2割で、買収を検討している企業は約8割あります。

■会社を買収する7つの理由
1.売上・シェアを大きくしたい
2.利益を増やしたい
3.業績を安定させたい
4.いろいろな事業をやりたい
5.役員・社員にポジションを与えたい
6.自分たちがやったほうがうまくできる
7.知人経営者に頼まれたから(救済)

■6つの買収戦略
1.ライバル企業の買収
2.川上・川下への垂直統合
3.商品・サービスの拡充
4.規模のメリットの追求
5.周辺分野への進出
6.新規事業の獲得

■5つのシナジー
1.売上シナジー
2.コストシナジー
3.リスク分散効果
4.財務力強化
5.経営手法の導入・社員の意識改革

■負のシナジー
M&Aを景気にして買収対象会社の顧客が離れること、経営陣・社員が辞めること、社員のモチベーションの低下、ITシステム等の統合に係るコストなどを「負のシナジー」とよびます。マイナスシナジー、ネガティブ・シナジー、ディスシナジーとよばれることもあります。

■「負のシナジー」と「カニバライゼーション」
時に「負のシナジー」と「カニバライゼーション」が混同されていることがありますが、これらは意味していることが違います。カニバライゼーションとは「共食い」という意味で、同一企業グループ内で、商品・サービスが競合し、互いにシェアを奪い合う状態を意味します。M&Aによって同一グループ内でこのような状況が生じたとしても、もともと競争状態にあったことに変わりはなく、これ自体は負のシナジーではありません。

■スタンドアローン問題
売り手企業があるグループ会社の1社であったり、ある会社の一事業であったりするときに、そのグループ、会社から分離されることによって生じるマイナスの影響のことです。たとえば、間接部門(財務会計、人事総務等)、仕入れ、生産、販売等の機能をグループ会社やほかの事業部で行っていた場合に、売り手の会社・事業だけを切り出して買収した場合に新たなコストが生じることがあり、これを「スタンドアローンコスト」とよびます。

■ブレイクを望む会計士
DDを担当する会計士(監査法人)や弁護士は対象会社のリスクを数多く列挙して分厚いレポートをつくりますが、なかにはM&Aが破断することを望んでいる会計士や弁護士もいます。なぜなら、もしM&Aが成立して、そのあとに何か見落としていた大きなリスクが出てくれば責任問題になりますが、そもそもM&Aが破断して不成立となれば、そのようなことが起こる恐れはなく(かつ、DD費用は手に入れた上で)枕を高くして寝ることができるためです。したがって、DDで指摘されたリスクが本当に本質的かつ重要なものなのかをひとつひとつ買い手自身が見極める必要があります。

■売り手、買い手を集める4つの方法
1.直接問い合わせを受ける
2.紹介を受ける
3.セミナーによる集客
4.電話営業

■売り手集めには「首都圏では」インターネットが効果的
意外に思われるかもしれませんが、首都圏ではインターネット検索で仲介会社のホームページを見たり、広告やDMで仲介会社のことを知ったりして、売り手または買い手が自ら直接電話やホームページから問い合わせるのが主流になっています。
買い手がホームページを見て連絡するというのはまだ理解できても、オーナー社長が自分の会社を売却するのに見ず知らずの会社にホームページから問い合わせするのかと思われるかもしれませんが、実際にはこれが一番多いのです。しがらみのない中立的な専門家に依頼したいというニーズのあらわれでもあると思います。

■買い手ありきのM&A
買い手ありきのM&Aは、結果として数十社に打診しても1者も買収できないということが普通です。書いてありきで売り手を探しても最終的に1社でも買収できる確率は5%も無いと思います。

■売り手ありきのM&A
M&Aは「売り手ありき」で買い手を探すのが王道です。
仲介会社が売却依頼を受けた場合の成約率は各社によってまちまちですが、低いところで10%、高いところで40%ぐらいだと思います。
売り手の会社の業績がよくなく、成約率が低いと思われる売却案件でも、とりあえず受ける仲介会社がさらに情報力・営業力がなければ、成約率は10%程度になるでしょう。反対に、成約率が高くないと受けない(完全成果報酬型に多い)仲介会社が情報力・営業力をもっていれば、売却依頼を受けたうちの40%程度は成約に至ります。

■「仲介者」と「アドバイザー」どちらがやりたいか
どちらが「やりやすいか」といえばアドバイザーのほうです。立場がはっきりしていて、利害を主張しやすいからです。一方、仲介者の場合は双方に気を遣わなければならず、また双方の利益のバランスをとらなければならないので、その分難しいといえます。こちらは中立的に行動しているつもりでも、買い手から「売り手の味方をしているのではないか」といわれてしまうこともあります。
しかし、どちらが「やりたいか」と聞かれれば仲介者のほうになります。仲介者の方が売り手、買い手の双方から成功報酬をいただけるというのもありますが、ひとりで話をまとめたという達成感がより得られるためです。M&A成立後に、売り手、買い手の双方から感謝されると格別の満足感が得られます。