【書評】間取りの方程式(飯塚 豊)


著者は法政大学デザイン工学部兼任講師を務める一級建築士。i+i(アイプラスアイ)設計事務所代表。暮らしが愉しくなる間取り・高い居住性能・オリジナリティあふれるデザインを三位一体でまとめあげる設計手法を持つ。家造りサイト「住まい手の立場から住宅を考える」主宰。

i+i(アイプラスアイ)設計事務所
http://iplusi.exblog.jp/

住まい手の立場から住宅を考える
http://www8.plala.or.jp/yutaka-i/

前書きからいきなり面白い本。途中専門的な内容もあるものの、そういう難しい部分には必ず鴨居猛氏の「思わずニヤッとさせられる愉しい」イラストがあり、そのイラストを見るだけでも理解できるようになっている。家造りという、一筋縄ではいかない主題に対して「方程式」を当てはめるのは非常に難しいであろうことは想像に難くないのだが、敢えて捨てる、まずはこれだけ、という感じでとにかく簡単に感じられるように意識されて書かれている。専門用語は仕方がないとしても、平易な文章で全編貫かれており、それでいて内容は濃い。自由度が高すぎるが故にはじまりのきっかけを見失ってしまうような事案に対しては、これが基本!ここから考える!という道標が常に用意されている。比喩表現は少しオヤジギャグが多く、わかりやすく、「愉しく」が全体的に貫かれている。そのおかげで、一度読めば一生忘れない知識になるであろうものが多い。
いい文章、いい本とはこのようなものだなと感じた本。非常にオススメ。

いま、あなたが暮らしている家の間取りは、どうしてそのような間取りにでしょうか?マンションに暮らす人、建売住宅に暮らす人は全くあずかり知らぬところでしょう。設計者と打ち合わせを重ねながら家つくりを進めた、注文住宅に暮らす人ならご存知かもしれません。ただ、どうでしょうか。わが家の間取りが最終的にこうなっている理由を理路整然と説明できる人は少ないのではないでしょうか。
無理もありません、なにしろ間取りを組み立てる作業というのは、住宅の設計をまかされた設計者が、クライアントの要望に加え、法律・構造・設備・断熱・材料・構法・デザイン・コスト・工期など、ありとあらゆる要素を勘案した上でまとめ上げる、きわめて専門的かつ個人的な仕事だからです。膨大な手間と時間をかけて、間取りはようやくひとつのかたちに整えられていきます。

◯LDK方式の弱点
◯LDK方式は「○」の中に必要な個室の数を代入すれば、きれいに整った間取りが自動的に出来上がります。ただ、不特定多数の人を対象に作られる◯LDKというフォーマットは、不特定多数が前提となるだけに、特定の誰かを感動させる魅力的な間取りには、到底なり得ないのです。

魅力ある空間は間取りのストーリーから生まれる
なぜこのような間取りにするのかという「その物件ならではの解決策」が検討されていなければ、空間としての魅力も、新しい暮らしに対する期待感も、その間取りからはまったく伝わってきません。間取りは与条件をどのように解いたかという個別のストーリーがあってはじめて魅力的になるのです。

間取りができるまので背景をイメージする
目の前の間取り図が出来上がるまでの背景を設計者の思考をたどりながら想像していけば、一見、住みやすそうに感じられる間取りも、実は快適な住まいに不可欠な要素がすっぽり抜け落ちている、なんてことに気づくかもしれません。反対に、至って普通に見える間取りのなかに、毎日の生活を愉しくしてくれる、心を穏やかにしてくれる仕掛けが隠されているのを発見するかもしれません。「問題の解き方」を少しでも知っていれば、間取りを見る目は根本からかわってくるはずです。

良い間取りは四角形から生まれる
良い間取りは、良いかたちの建物から生まれます。良いかたちの建物は、かならず四角形から生まれます。
仏師が一本の木から仏像を掘り出しように、何の変哲もない四角形から良いかたちの建物を取り出す作業が、良い間取りに通じる近道といえます。
四角形 → 建物 → 間取り。
「いきなり間取りから始めないこと」。
プロとアマを隔てるまどりづくりの極意です。

間取りづくりとは敷地のうまみを引き出すこと
大切なのは、あくまで敷地と建物の関係です。ですから、敷地の条件が少しくらい悪くても気にすることはありません。敷地の個性に合わせて建物の設計を工夫できれば、好条件の敷地に勝るとも劣らない素敵な間取りを実現できます。魚だって野菜だって、少しばかり鮮度が落ちても火を通せばそれなりに美味しくいただけるのは皆さんご存知のとおり。間取りづくりの第一歩は、敷地の旨味を引き出すところからはじまるのです。

良い敷地 = パーフェクトはあり得ないと心得る
周囲に建物が少なく、平坦で面積も広い敷地なら言うことありません。ただ、そんな上玉は都市部では皆無。田舎でも場所によりけりです。ゆえに、パーフェクトを求めるのは禁物。少しでもキラリと光る部分があれば、十分良い「素材」だと思うことです。

いまいちな敷地 = ネガポジ反転の発想で
面積が狭い、変形している、高低差がある、周りを建物が取り囲んでいるなど、いまいちな敷地はそこらじゅうにあります。一見問題なさそうでも売買価格の安い敷地は、たいてい部分的に「傷んでいる」ものです(あとで気づくことが多い)。でも、あきらめるのはまだ早い。建物のほうを適切に「調理」してあげられれば、たいていのデメリットは気にならなくなります。

法律デザインは最低デザイン
街中を歩いていてふと上の方を見ると、周りのビルやマンションの壁面がどれも似たような角度で傾斜していて不思議に思ったことはありませんか?あれってデザイン?いえいえ、法律上の制約にしぶしぶ従った結果、あのような奇抜な光景が出現したのです。建物の上部が斜めになるのは、建築基準法が定める「斜線制限」の仕業。周囲の建物に日当たりや通風を確保するための絶対的な決まり事です。斜線制限は、もちろん住宅にも適用されます。主に屋根の形(勾配)ですが、これは斜線制限を無視して決められません。だからといって、「屋根の勾配を斜線制限のラインに揃える」これだけはやめてください。法律が定めるラインに合わせただけの屋根勾配は、もはや設計とは呼べません。「法律デザイン」は廃案でお願いします。

四角から変形させるのは2回まで
住宅は規模の小さな建物です。シンプルな形状から変形させる(凹凸させる)のは1回、多くても2回までに留めておきましょう。さもないと、建物が複雑怪奇、魑魅魍魎な姿に変身していきます。

敷地から間取りを感じる
大まかな部屋の配置は、敷地の真ん中に立てば何かしらひらめくものです。敷地に接する道路(オープンスペース)を基準に駐車場と庭の配置を決めたら、全身の感覚を研ぎ澄まして「感じて」ください。

水廻りは建物の裏側へ
建物の裏側には、滞在時間の短いトイレ・洗面室・浴室といった水廻りを配置しましょう。水廻りに付随する給湯器、桝類、各種メーター類なども裏側へ。設備関連の機器が裏側に隠れると、建物の外観もすっきりします。なお、滞在時間が長く使用頻度も高いキッチンは、表と裏の中間くらいに配置するのがよいでしょう。

「LDK」は「KD・L」
キッチンとダイニングは、その機能特性上、隣同士にしておくと食事の準備も後片付けも効率的です。この2つは「常に一緒」が基本でしょう。けれどリビングは、キッチンから遠くにあってもそんなに悪くありません。ダイニングに近ければいいかなぁという程度。というわけで、「KDにLをを接続する」とおぼえておけば、LDKがおかしな配置になるおそれはなくなります。

LDKの目安は15畳
LDKに必要な面積は、長方形にしろ、正方形にしろ、だいたい15畳程度です。ダイニングセット、テレビ、小さめのソファ、パソコンスペースなどを確保したLDKは、どんな家でもそれぐらいで収まります。

「リビング階段」を入れて20畳
リビング階段形式のLDKの収め方はいろいろですが、ダイニングとリビングの間に階段を挟むと、両空間の領域性がよりはっきりします。面積は階段を含めて約20畳。リビング階段は一種の吹き抜けになるので、冬は階段を伝って上部に熱が逃げていきます。断熱・気密設計がしっかりしていない住宅は、竣工後にクレームとなるおそれがありますので十分注意してください。

玄関と階段は建物の中央付近に配置する
玄関と階段を建物の中央付近に配置すると、廊下という「移動にしか使わないスペース」が削減されます。廊下が減れば、各部屋に割り振られる面積が増え、部屋が広くなります。間取りの構成上、廊下の存在は必ずしも「悪」ではありませんが、間取り検討の初期段階ではなるべく廊下が少なくて住む配置を考えてみてください。

455mmで刻みたい
住宅の設計に使われるモジュール(基準寸法)は、昔も今も尺貫法の3尺をベースにした910mmが一般的です。廊下やトイレの幅、押し入れの奥行きなど、910mmという長さは昔から私たちの日常生活にフィットしてきた万能の寸法といえます。建物を作る材料も、多くは910mmが基準です。けれど私は、その半分である455mmを多用しています。ほとんどの住宅は、限られたスペースに個室や収納を効率よく設けなければならないため、910mmという単位では少々大雑把すぎて「帯に短したすきに長し」な場所がいくつも出てくるからです。