[図解]IGPI流 経営分析のリアル・ノウハウ(冨山和彦)

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【評価】

【こんな人におすすめ】
・机上の空論しか言わないコンサルが嫌いな人
・親の会社を承継しないといけない人
・M&A(PMI)に興味がある人

【書評】
著者は1960年生まれ、東京大学法学部卒、スタンフォード大学MBAホルダー、司法試験合格からのボストンコンサルティンググループ、コーポレイトディレクション代表取締役を経て、2007年に株式会社経営共創基盤(IGPI)代表取締役CEOという経歴。

実務をやったこともない経営コンサルの机上の空論、企業診断技術論かと思い買ってみた(そういったコンサルに騙されないように、そういう知識も付けておこうという意味での読書はします)ところ、中身は全然違った。

ひとことでいえば「リアルな」経営分析の本。

BS、PLは大事。ただ、それだけでは分からないことがたくさんある。よくわからない単なる数字遊びを具体的なイメージに落とし込む作業や方法論、そして事例が多く掲載されており楽しい。

会計の本でもなく、題名にある「経営分析」の本というよりは中小大手問わずよくある落とし穴(になぜはまるのか、はまらないためにはどうすればいいか)事例集という感じ。

アマゾンでのレビューは散々ですが個人的に非常におすすめ。

【抜粋】
経営分析の目的ははっきりしている。その会社がいい状態にあるのか、悪い状態にあるのかを見極めることである。

経営分析はよく人間の健康診断にたとえられる。検査をし、出てきた数字をチェックして、健康体なのか、病理的な状態に有るのかを判断し、隠れた病気を見つけたり、将来の予防に役立てたりする。

人間の健康診断でも体質や年齢、性別によって見方が変わるように、企業の経営分析でも個体差がある。業種やビジネスモデル、企業規模によって、健康体のゾーンが違う。ましてや個別企業の置かれた状況によって判断基準がまったく異なるので、ある数字だけを取り出して健康である、病気であるとは一概には言えない。

リアルな経営分析では、その企業が抱えている潜在的なリスクは何か、ということも視野に入ってくる。過去を評価するのではなく、将来どうなるかを見極めるのが経営分析の役目だからだ。

一般によく使われる財務指標による経営分析は、株式投資のための分析手法に近い。財務指標というのは個別に見ればかなり違うはずの各企業を同じ土俵に載せて、同じ指標で手っ取り早く比較するためにある。証券市場には多くの銘柄が並んでいるので、同じ基準で比較できないと、投資家は投資先を選べない。

証券市場というのは、リンゴとミカンを強引にフルーツで一括りにして、それを一列に並べて比較するためのものだ。財務会計が悪いわけではないし、会計士を責める必要もない。彼らには彼らのミッションがある。

「平均」というのも曲者である。たとえば、平均賃金を見ても、その会社の年齢構成比がわからなければなんとも判断できない。平均値で業界平均とくらべてもそれだけでは高いか低いかはわからない。かつてのどこかの航空会社のように、年齢によって違う賃金体系でやっている企業もあるかもしれない。上の世代の既得権には触れずに、下の方だけ賃金カットを進めていたりすると、単純な平均値を見るだけでは何もわからない。

資生堂やコーセーのように、デパートなどの店舗で美容部員が対面販売するいわゆる制度品メーカーと、ロレアルやマンダムのように、スーパーや薬局の商品棚からお客がセルフで選んで買う、一般品メーカーでは、同じ化粧品メーカーでもまるで違う。さらに、訪問販売のノエビア、通信販売のファンケルなど、無店舗販売の化粧品会社もある。経済のメカニズムがそれぞれ違う。

「制度品」流通とは、化粧品メーカーが系列販社経由で、直接契約を結んだ小売店に限定して商品を供給する流通であり、「一般品」流通とは、一般の化粧品卸を経由して、メーカーとの取引契約をせずに、小売店に商品を供給する流通のことを言う。

世の中の専門家と呼ばれる人たちは、複雑で高尚なことを言いたがる。だが、たいていのビジネスそのものの本質は、複雑で高尚なものではない。筆者がJAL再生タスクフォースに携わったときも、エアラインビジネスについて、一部の専門家が難しいことを言っていた。でも、飛行機を買い、公共の空や空港を使って、あるところからあるところへ、安全に人や荷物を運ぶということでは、経済行為の本質としては、バス会社のやっていることとそれほど変わらない。むしろ路線の自由度はバス会社のほうがはるかに高い。

その議論が1%の議論なのか、10%の議論なのかということがクリティカルに大事になる。コスト比でいって、全体の1%のところでいくらスケールメリットを効かせようとしても、屁の突っ張りにもならない。10%のところでやらないと意味がない。

JALの場合も、顧客データを使ったマーケティングやら、燃料価格のヘッジの話やら、特殊なリース手法を使ったコスト低減手法やら、業界の専門家しかわからないようなマージナルな議論が多かった。だが、突き詰めていくと、結局、この会社は人も飛行機も路線も3割方多すぎるということろに行き着く。その部分、すなわち固定費をカットすれば問題の95%くらいは解決する。そう思って、実際にコストをカットした。そうしたら案の定、東日本大震災が起きたときでも黒字を維持している。

企業の経営者は、現場も知っているし、自社の数字も押さえている。にもかかわらず、自分で的確な判断が下せないとしたら、それは経験料の差が原因である。