決算書で読む ヤバい本業 伸びる副業(長谷川 正人)

決算書で読む ヤバい本業 伸びる副業(長谷川正人)
【評価】

【こんな人におすすめ】
・複数のセグメントを持つ企業の決算書を深く理解したい人
・M&Aに興味がある人
・本業で伸び悩んでいる経営者

【書評】
著者は1958年生まれのコンサルタント、本業としては大手コンサル企業に勤めつつ、さまざまな講演をこなし、テレビ出演も多数。有名な著作は「ヤバイ決算書」。

本書は、社名からイメージする本業と実際の本業と呼べるもの(副業)が違う企業についての著作。例えば日立「造船」とあるのに造船業からは退いていたり、サッポロビールは実はビル(不動産)で儲けているサッポロ「ビル」だ、というような話が複数まとめられており、非常に楽しい一冊。

企業名とその利益の源泉に齟齬が出てきている理由は業態転換であったり、副業が伸びているからであったり、本業が縮小して比率が変わってきているからであったりするが、やはり多いのはM&Aによる事業ポートフォリオの変化。実際のデータ、実際の企業名で書かれているので話が具体的で興味深い。「本業」「副業」を読み取るために使われているのは「決算書を読む」技術であり、決算書の読み方の教科書としても使える一冊。

また最終章には突然、インターネットサービス企業のクセのある決算書の読み方として、LINEとクックパッドの例が出てくる。副業があるわけでもない二社(クックパッドは以前は副業もあったが)を取り上げる意味はわからないものの、内容はこれはこれで面白く結果オーライ。

【抜粋】
(ソフトバンクの)「国内通信+ヤフー事業」の利益に「2013年以降海外買収4事業」が徐々に迫りつつあることがわかります。この傾向が続いて行けば近い将来、ソフトバンクの収益構造はさらに大きく変わることになります。
※4事業=スプリント、ブライトスター、アーム、SVF(ソフトバンク・ビジョン・ファンド)

■SVF(ソフトバンク・ビジョン・ファンド)の投資先
OneWeb(米、通信衛星ベンチャー)
http://www.oneweb.world/

WeWork(米、コワーキングスペース)
https://www.wework.com/

Guardant Health(米、血液生体検査)
http://www.guardanthealth.com/

Didi(滴滴出行)(中国、ライドシェア)
http://didichuxing.com/

Grab(シンガポール、ライドシェア)
https://www.grab.com/sg/

Flipkart(インド、Eコマース)
https://www.flipkart.com/

■富士フイルム
2006年4月、富士「写真」フイルムから移行する純粋持株会社の社名を「富士フイルムホールディングス」とすることが発表されました。同年10月1日は富士フイルムホールディングスが発足し、その下に主要な事業会社として富士フイルムと富士ゼロックスの2社がぶら下がるという現在にいたり組織構造がスタートしました。これによって、それまで事業会社であり、富士ゼロックスの親会社でもあった富士写真フイルムという会社は消滅し、伝統ある「写真」の2文字が社名から消えることになりました。

富士フイルムグループについて書かれた「成功物語」の多くは、「稼ぎ頭だったフィルム需要が急減する中、それに代わって高機能材料やヘルスケアなどインフォメーション事業を育成したことにより、ポートフォリオの入れ替えに成功した」というストーリーです。しかし、数字で見るとこの間、富士フイルムグループの収益を一貫して支え続け、徐々にウェイトを高めているのは、3つのセグメントで最も注目されることが少なかった富士ゼロックスが展開するドキュメント事業なのです。

■日立造船
日立造船は今では、日立グループに属しているわけでもなく、造船事業も行っていないという点で「社名が実態をまったく表していない会社」の代表といえます。
日立造船の造船事業撤退(株式売却)は、このようにやむにやまれぬ事情から生じましたが、ユニバーサル造船と内海造船の売却を合わせた300億円弱のキャッシュインを「旅の窓口」の楽天への売却300億円強のキャッシュインが上回っているのは意外な感があります。

■すかいらーく
すかいらーくは社名であると同時に、かつては同社の代表的なファミリーレストラン業態のブランド名でありました。今ではすかいらーくという店舗ブランドは消滅してガストが主力業態になっていますが、社名は以前のままです。

■日本郵政
日本郵政は2015年11月に上場して注目されましたが、傘下の主力3事業会社のうち郵便事業を担う日本郵便は赤字かどうかスレスレの業績が続き、利益の大半は銀行(ゆうちょ銀行)、生保(かんぽ生命保険)であげています。

■大日本印刷
大日本印刷は社名に印刷の2文字がありますが、市場関係者で同社を昔ながらの紙の印刷会社と見る人はいません。電子精密部品など「エレクトロニクス」セグメントが利益の過半を占めます。

■アマゾン
アマゾンの売上はブラックフライデー(11月下旬)やクリスマス商戦のある10~12月期が一年間の売上の3割以上を占める書き入れ時です。この期間に顧客から現金で入るキャッシュと仕入先への支払いとの時間差で多くのフリーキャッシュフローを稼ぎ出しているのです。

3つに分類されるセグメント情報
1.北米 Eコマース(North America)
アマゾンWEBサイトのある米国、カナダ、メキシコの3カ国を中心とした業績がこの事業セグメントに反映されます。3カ国のうちの米国の人口比率は66%です。2017年12月期の売上は1061億ドルと全体の約6割弱の構成比で、構成比にあまり変化は見られません。営業利益率は2%台と低水準ですが黒字を出しています。

2.北米以外 Eコマース(International)
アマゾンWEBサイトのある以下11カ国の損益を中心に反映しています。
アジア、オセアニア:日本、中国、インド、オーストラリア
欧州:ドイツ、イギリス、フランス、イタリア、スペイン、オランダ
南米:ブラジル
2017年12月期の売上は542億ドルと全体の約3割強になりますが、この構成比は低下傾向にあります。営業利益は一貫して赤字が続いています。

3.AWS(Amazon Web Services)
世界のクラウド市場ではアマゾンのAWSがシェア31.8%とトップで、2位のマイクロソフト(13.9%)、3位のグーグル(6.0%)を大きく引き離しています。また、日本でのAWS利用企業数も2013年に約2万社だったのが、2017年11月時点で10数万社に拡大し、三菱UFJグループやソニーも導入を決めています。
AWS事業の売上は2017年12月期まで、31億ドル→46億ドル→78億ドル→122億ドル→174億ドルと急ピッチで成長しています2017年12月期には連結売上の9.8%を占めています。営業利益では、4億ドル→15億ドル→31億ドル→43億ドルと急伸しています。

■HIS
HISと聞けば誰でも旅行会社と思いますが、同社の連結業績は今や旅行業だけでは説明できなくなっています。その最大の理由はHISが2010年4月にハウステンボスを子会社化したことです。ハウステンボスは1992年3月に開業しましたが、経営不振が続いていた中で澤田氏が自ら社長に就任して経営再建に挑みました。ずっと赤字が続いていたハウステンボスの立て直しは困難と見られていましたが、HISの傘下に入った直後に黒字転換し、現在では旅行事業とともに連結営業利益のほぼ半分を稼ぎ出すまでの優良事業に変貌しました。

■ベネッセ
ベネッセでは大黒柱だった進研ゼミ(国内教育事業)の情報流出で会員数も売上、利益も急落し、赤字転落、相次ぐ社長の交代という混乱の中、増収増益を続ける介護事業が中心となり、海外事業も加わった形で収益の下支えを果たしてきました。

■イオン
イオンは事業セグメントを7区分に分けており、2014年以降に3回細かな事業セグメントの組み換えが行われており、たとえ同じセグメント名であっても数値的な連続性に欠けることもあることに注意が必要です。ただし、連結営業利益の多くを稼ぐのが「総合金融」「ディベロッパー」セグメントである構造は変わっていません。イオンの連結総資産の半分近くは金融事業の資産です。
1.GMS事業(総合スーパー)
2.SM事業(食品を中心とした中小型スーパー)
3.総合金融事業(クレカ、カードショッピング、イオン銀行)
4.ディベロッパー事業(イオンモール)
5.ドラッグ・ファーマシー事業(ウエルシア薬局、HACドラッグ)
6.サービス・専門店(ボディショップ、イオンシネマ、モーリーファンタジー等)
7.国際事業(中国とASEANの小売事業)

■サッポロビール
札幌の連結営業利益のほぼ半分を稼いでいるのが不動産事業なのです。不動産事業の利益を抜きにしてサッポロの連結業績は考えられません。株式市場では以前から「サッポロビール」の実態は「サッポロビル」といわれるのも理解できます。
不動産事業の中でも稼ぎ頭になっている(不動産事業の利益の7〜8割を稼ぐ)のが東京の恵比寿ガーデンプレイスで、その中でもオフィスビルの恵比寿ガーデンプレイズタワーは規模の大きさから、最大の利益貢献を果たしていると思われます。

■フジ・メディア・ホールディングス
フジ・メディアは今や利益面でも資産面でも、放送局の会社というより、半分は(利益では半分以上が)不動産事業の会社に変わっているのです。

■TBSホールディングス
セグメント別に売上を見ると放送事業が2210億円、不動産事業が206億円と10対1の大差があるのですが、営業利益では放送事業59億円を不動産事業77億円が上回っており、TBSでも本業の放送事業より不動産事業が利益面での稼ぎ頭になっています。