【著者紹介】
デボラ・ザック(Devora Zack)
オンリー・コネクト・コンサルティング社CEO
コーネル大学ジョンソンスクール(経営大学院)の客員教員を15年以上にわたり務め、マネジメントスキルやネットワーキングについて講義を行う。
アメリカ教育省、コーネル大学、メンサ、スミソニアン協会、ロンドン・ビジネススクール、デロイト、オーストラリア・インスティテュート・オブ・マネジメントなど100を超える企業、団体にリーダーシップ、チームマネジメント等の指導を行う。
Only Connect Consulting Inc.
http://www.myonlyconnect.com/
【書評】
かなりの名著。ただし、私自身はそもそもシングルタスク信奉者であるので、その分を割り引いてもらうと普通の名著ぐらいになるかもしれない。
マルチタスクが評価される世の中であるが、その『マルチタスク』というが意味するものはマルチタスクではないと言い切る。若者はマルチタスクが得意だという通説は単なる勘違いだとぶった切る。「シングルタスクはいいよ」というだけの本ではなく、それを達成させるための細かい事例集まであり実用的ですらある。章の導入部や文中に挿入される偉人の言葉もぐっとくるものばかり。
シングルタスクを厳格に守ることで人間関係さえよくなると主張するが、そこはシングルタスクを邪魔する人間は必要ないので関係が悪くなっても問題なし!ぐらい言い切って欲しかったかなと思うぐらいしか不満がない本。当然おすすめ。
また、最初から最後まで訳者の顔が一切浮かぶことなく読めた。まるで最初から日本語だったかのような文章。これは訳者の栗木さつき氏の翻訳力のなせるわざだと思う。
【まとめ/抜粋】
シングルタスクは贅沢品などではない。それは必需品だ。
一度にひとつのことだけに集中すれば、もっと成果をあげられるようになるし、睡眠だって十分にとれるようになる。それどころか、リフレッシュにあてる時間が増えるのは、シングルタスク生活の結実であると同時に一因でもある。
シングルタスクの原則とは『一度にひとつの作業に集中して、生産性を上げること』
そのためには、頭のなかの余計な雑念に邪魔をさせないようにし、外からの刺激をシャットアウトすることが必要。
もっともタスクを変えない人が、もっとも能率が高い。
ハーバード大学の研究によると、あたふたとせわしなく働いている社員たちは1日に500回も注意を向けるタスクを変えるが、もっとも能率の高い社員たちは注意を向けるタスクを変える回数がむしろ少ない。
つまり、タスクからタスクへと注意を向ける先を切り替える頻度の高さは、生産性の低さと相関関係がある。
マルチタスカーはシングルタスカーより、外部から邪魔が入ると影響を受けやすい。
マルチタスカーは「目の前の作業とは無関係のことに手を出すのはやめよう」という抑止力がきかず、集中力も鈍い。
「一点集中」で生産性を最大化する。
シングルタスクを始めれば「1日働いて何もできなかった」という徒労感がなくなる。
一点集中術はもっとも重要なことに注意を引き寄せるシンプルな方法。
作業の能率が落ちる原因は2つ、「頭に浮かんだ別の思考」と「外部からの刺激」。
「これまでマルチタスクが役に立ったことはあるか」と自分に問いかけてみる。
本来、「一度に複数の作業をしようとする(マルチタスク)」こと自体が「気が散っている」ことを意味する。
めざましい成果をあげたいのなら、脇目もふらず、目の前の作業に集中するしか無い。
そもそも人間の脳は、一度に複数のことに注意を向けることができない。
マルチタスクは情報の流れを遮断し、短期記憶へと分断する。そして短期記憶に取り込まれなかったデータは、長期記憶として保存されずに、記憶から抜け落ちていく。だから、マルチタスクを試みると能率が落ちるのだ。
マルチタスクなどしていない、タスクからタスクに『スイッチ』しているだけ。
スタンフォード大学の神経科学者エヤル・オフィル博士は「人間はじつのところマルチタスクなどしていない。タスク・スイッチング(タスクの切り替え)をしているだけだ。」と説明している。
人にはマルチタスクをこなすことなどできない。
マサチューセッツ工科大学のアール・ミラー博士はこう述べている。「なにかをしているときに、べつのこと(タスク)に集中することはできない。なぜなら2つのタスクのあいだで『干渉』が生じるからだ。人にはマルチタスクをこなすことなどできない。『できる』という人がいるとしたら、それはたんなる勘違いだ。脳は勘違いするのが得意である。」
意識的な努力を必要としない活動は、メインの作業と同時におこなうことができる。
しかし、これはマルチタスクにはあたらない。こうしたシンプルな作業には「簡単で機械的におこなえるもの」「集中力を要さないもの」が含まれる。
ミシガン大学のデヴィッド・マイヤー博士は次のように名言している。「たいがい、脳は複雑な2つのタスクを同時に処理することができない。ただ、その2つのタスクが脳の同じ部位を使わない場合は例外となる。」
自動操縦のようにこなせるタスクの例
・音楽を聴く
・書類をファイルにまとめる
・簡単な食事の支度をする
・ごく単純な手作業や修繕をする
人は目の前にあるタスクより、新たなタスクのほうに注意を向けたくなってしまう。
マルチタスクが間違っていることは承知の上で誘惑に屈服するのは、私達が目新しさをもとめるからだ。外部からの刺激が現状に変化を起こすと、そうした変化が良いものと認識されようが、悪いものと認識されようが関係なく、アドレナリンが血流を駆け巡る。だから、注意散漫の原因となるものを減らそう。この習慣を身につければ、私たちは本来の目標を達成することができる。
シングルタスクをするには、いまという瞬間、ほかの要求に一切応じることなく、ひとつの作業だけに取り組むことが求められる。
次の作業に着手できるのは、今取り組んでいる作業を終えてからだ。とはいえ、何も目の前の作業をかならず完了しなければいけないわけではない。「この時刻まではこの作業に専念する」と決めた時刻がくるまで集中すればよい。
飽きもせずに同じことを繰り返し不安に思うのは、大いなる『時間の無駄遣い』にほかならない。
私たちはつい、あの失敗さえ無ければうまくいったのにと後悔したり、起こりそうにないことを案じたりしてしまう。また、周囲の人をあれこれ批判してばかりいると、当然、能率は下がる。
過去についてくよくよと考えるのも、不安な将来を思い描くのも、無益なだけでなく、怠惰にすぎない。
なにかに没頭している相手に話しかけたところでうまくいくはずがない。
相手がなにかに集中していることを察したら、私はすぐに「いえ、少しお待ちします」と言うことにしている。
多くの人がこんなマルチタスクをしてしまっている。
・パソコンで作業をしていたのに、いつの間にかほかのことをしている(91%)
・名前を聞いたのに、しばらくするともう思い出せない(91%)
・人の多い場所や交通量の多い道をあるきながら、スマートフォンなどをいじる(87%)
・同僚や仲間と一緒にいるときに、メッセージなどに返信する(52%)
・ミーティングの最中、少し前の発言の内容が思いだせない(49%)
「いまここ」に集中し、「ひとつ」だけに没頭する。
・「いまここにいること」を徹底する。
・「一度にひとつの作業をすること」を徹底する。
・シングルタスクに専心することで「ゾーン」に入ることができる。
・シングルタスクは「エネルギー」✕「集中力」を生み出す。
・空白の時間に「繰り返し同じ悩みを考える事」が無駄に時間を奪っている。
・ミーティングの最中は、心と肉体を同じ場所に存在させる。
・SNSや電話の相手より、「眼の前にいる相手」をつねに優先する。
「フロー」に入るとシングルタスクになる。
ひとつの作業にぼっとすると「フロー」の状態が生まれる。すると、その行為に完全に集中し、普段よりずっと高い能力を発揮できるようになる。
だが、タスク・スイッチングをしていると「フロー体験」をできる可能性はゼロになる。
一言書き留めるだけで、頭のなかがすっきりするし、気も散らなくなる。
これは「パーキングロット」と呼ばれる手法である。反対に、書き留めるというただそれだけの行為を怠れば、すぐにその明暗を忘れてしまうだろう。
スマホの代わりに「ストップウォッチ」を使う。
スマホのタイマー機能を使うとスマホの他の機能ともつながってしまう!
メールの「ラリー」を減らせば時間が増える。
メールの最後に次のような文章を添えることでラリーを減らすことができる。
・返信不要です。
・ありがとうございます。これで、本日の業務は終了します。
・変更があった場合のみ、返信ください。
・○○さんにおまかせしますので、私にCCは不要です。
・では、当日よろしくお願いします。
・これから数時間、ネットが使えません。
・詳細は、○○さんと詰めて下さい。
同時の用件のときは「いまここ」を優先する。
いくつかの緊急な用事が同時に生じたら、「いまここ」にいる、目の前の相手を優先しよう。
あなたの「バイタル・フュー」はなにか?
質の高い仕事をする鍵は「些末な多数」(トリビアル・メニー)と「ごくわずかな重要なもの」(バイタル・フュー)を区別することにある。
成功者とは、集中力を発揮したごくふつうの人間である
詠み人知らず
自律できぬ者に自由なし。
エピクテトス
いつだって選択肢は2つだ。1つのことをうまくやるか、2つのことをヘタにやるかだ。
ある父親が大学を卒業したばかりの息子に向かって
おとなよりこどもの方がマルチタスクを得意とするのは周知の事実だ。とはいえ、一つ問題がある。その周知の事実が間違っていることだ。
Googleの元CIO、ダグラス・メリル
「ただの行動」と「活動」を混同してはならない。
ベンジャミン・フランクリン
勤勉でああるだけでは足りない。それではアリと同じだ。なんのためにせっせと働くかが問題なのだ。
思想家 ヘンリー・デイヴィッド・ソロー
時間は節約などできない。使うことしかできないのだ。しかし、賢くも、愚かにも使うことができる。
タオのプーさん(ベンジャミン・ホフ作)