【書評】ビジネスマンのためのファイナンス入門 – 55のキーワードで基礎からわかる(山澤 光太郎)


【著者紹介】
著者は1956年生まれ、1980年東京大学邦画部卒業後、日本銀行に入行。その後、米国Wharton School(ペンシルバニア大学)にてMBAを取得。香港事務所次席、函館支店長等を経て、大阪証券取引所に入社、大阪証券取引所常務執行役員を経て、現在は、日本取引所グループ専務執行役(総合企画・後方・IR・CSR担当)。

日本取引所グループ
http://www.jpx.co.jp/

【書評】
まず最初にことわっておきたいのは、私はファイナンスに関しての知識が非常に少ないということ。そしてファイナンスが苦手であるということ。それを踏まえた上で続く書評を読んでいただきたいのだが、この本はとにかく難解でした。そもそも内容が理解できていないだけという可能性は拭いきれませんが、文章自体も私には難解でした。「基礎からわかる」とありますが、わかりませんでした。ただし、文章の中にある情報量の濃さと、著者の頭の良さは文章からにじみ出ていました。

著者の頭の良さは文章から感じると述べましたが、私のような人間に噛み砕いて簡単に説明する能力があるかは疑問が残ります。「本当に頭のいい人は難しいことを簡単に説明できるものだ」論争(ちなみに私は反対派、頭の良さと、簡単にわかりやすく説明できる能力は別物だと考えています)は話がそれるので割愛するとして、そもそもこの本は私のような素人を対象にしていないのかもしれません。しかし、そうなるとやはり「基礎からわかる」という部分が引っかかります。言葉の定義にもよりますが「ビジネスマンのための」という部分にも違和感があります。著者にとってのビジネスマンとは、私のような「働くひと」ではなく、米国でMBAを修了するような「ビジネスマン」なのかもしれません。「基礎からわかる」と書いてありますが、米国MBAを修了するようなビジネスマンなら「基礎からわかる」ような内容という意味なら納得です。書籍内には図表も多く、親切ではあるのですが、そもそもその図表の内容が難解です。

いつかまた改めて読むと洞察の深さに唸らされる日が来るかもしれませんし、そのような日が来てほしいと思います。文章からは本当に著者のファイナンスに対する知識の広さと深さを感じますが、今のところは「難解な書籍」という感想です。いい本である(という感じがする)のですが、題名に難ありで「基礎からわかる」とは思えませんでした。

【抜粋/まとめ】
ファイナンスとは何か
ファイナンスは、企業や個人の活動の内、資金の流れを伴う幅広い領域を対象としている。ファイナンスの理論は、投資に関する理論(インベストメント)、企業財務に関する理論(コーポレート・ファイナンス)、資本市場に関する理論(キャピタル・マーケット)に分けられる。

企業活動とキャッシュフロー
企業が事業活動を行う中で、さまざまなキャッシュフロー(資金の流れ)が生じるが、こうしたキャッシュフローは「調達」「投資」「回収」「分配」の4種類に分けることができる。プロジェクトや企業の価値は、それらが生み出す将来のキャッシュフローを現在の価値に引き直したものと等しくなる。

キャッシュフローに着目した経営(その1)
企業がプロジェクトの選択、生産量の決定、不採算事業からの撤退などに関して、企業価値を最大化する意思決定を行うためには、会計上の利益ではなく、キャッシュフローに着目する必要がある。

キャッシュフローに着目した経営(その2)
企業経営において、売上高シェアや会計上の利益に着目するか、あるいはキャッシュフローに着目するかにヨテ・、経営環境の変化に応じて抜本的な経営革新を実施するスピード感などの経営スタイルが大きく異なってくる。

現在価値と将来価値
キャッシュフローの経済的価値を正しく評価するためには、キャッシュフローが発生するタイミングと確からしさを考慮する必要がある。現在のキャッシュフローの将来における価値を「将来価値(future value)」
将来のキャッシュフローの現在における価値を「現在価値(present value)」と呼ぶ。

永続価値、成長永続価値、年金原価
永続価値とは、永久に続く一定額のキャッシュフローの現在価値、成長永続価値とは、一定の割合で永久に成長し続けるキャッシュフローの現在価値をいう。年金原価とは、特定の期間中は毎期一定額の支払いがなされる年金型キャッシュフローの現在価値をいう。

正味現在価値(NPV)ルールによる投資判断
投資が生み出すキャッシュフローの現在価値の合計額から当初の投資額を差し引いた金額を正味現在価値(NPV : Net Present Value)と呼ぶ。企業は、NPVがプラスの投資を実行することにより企業価値を高めることができる。

NPV以外の投資判断ルール
企業がプロジェクトへの投資の可否を判断するルールとしては、NPVルール以外にも、投資回収期間ルール、内部収益率(IRR)ルール、収益性指数(PI)ルールなどがあるが、その中ではNPVルールが最も優れている。
【1】投資回収期間ルール(payback period)
【2】内部収益率ルール(IRR : Internal Rate of Return)
【3】収益性指数ルール(PI : Profitability Index)

相互に排他的な代替案と資本制約
NPVルール、IRRルール、PIルールは、独立した投資を判断する基準としては概ね同じ結論を導く。ただし、相互に排他的な代替案の中から1つのプロジェクトを選択する場合にはNPVが最大のプロジェクト、資本制約がある場合にはPIの大きな順にプロジェクトを選択することが必要である。

投資のリターンとリスク
投資のリターンは、投資の期待収益率で表される。投資のリスクは、将来の不確実性を意味しており、収益性のバラツキ(統計学の言葉では分散や標準偏差)で表される。ファイナンスでは、一般の投資家はリスク回避敵であり、リターンが同じであればリスクが小さい案件を好むと考える。

ポートフォリオによる分散投資
投資家は、相互に関連の薄いさまざま資産にバランス良く分散投資することにより、投資のリターンを犠牲にせずにリスクを小さくすることができる。こうした投資行動を「ポートフォリオ」を組むという。

効率的フロンティアと分離定理
完全競争的な市場と合理的な投資家を前提とすると、投資家にとっての最適ポートフォリオは、無リスク資産と市場ポートフォリオを結ぶ資本市場線(CML)上のポートフォリオになる。全ての投資家はリスクに対する態度の違いに応じて、無リスク資産と市場ポートフォリオを適度に組み合わせたポートフォリオを保有する(トービンの分離定理)。

CAPM(資本資産評価モデル)
CAPMでは、個別証券の収益率(Ri)は、その証券のベータ(βi)、リスクフリー・レート(Rf)、市場ポートフォリオの収益率(Rm)によって決定されると考える。これをマーケットモデルまたは市場モデルと呼ぶ。

効率的市場仮説
効率的市場仮説によると、現時点で予測可能な全ての情報はすでに現在の株価に織り込まれているため、将来の株価変動は、現時点で予測できない将来の情報によって決まる。したがって、過去の株価推移から将来の株価を予測することは不可能ということになる。

CAPM批判とマルチファクターモデル
実際の市場には、CAPMや効率的市場仮説などの現代投資理論では説明できない非効率性(アノマリー)が存在している。また、1980年代以降の米国証券市場の実証研究は、CAPMの現実適用性を疑問視しており、マルチファクターモデルなど、CAPMを改善するさまざまなモデルが工夫されている。

企業価値とは何か
企業はさまざまな投資プロジェクトの集合体とみなすことができる。企業価値は、理論的には、企業が将来生み出すフリーキャッシュフローの現在価値(PV)の合計と等しくなる。

資本コスト
資本コストとは、資本提供の見返りとして、企業が株主や債権者に対して支払う対価のことをいう。日本の企業は伝統的に、株主に対して配当さえ支払えっておけばよいという意識が強いが、株主は債権者よりもリスクが大きいため、より高い資本コストを要求するものと考えられる。

加重平均資本コスト(WACC)
負債の資本コスト(税引き後)と株主資本の資本コストをそれぞれの価値(時価)で加重平均することにより、記号戦隊の資本コストを算出することができる。これを加重平均資本コスト(WACC)と呼ぶ。
WACC : Weighted Average Cost of Capital

企業合併・買収(M&A)による価値創造
他の企業を合併したり、他の企業の株式を買収して営業権を獲得したりする経営戦略をM&Aと呼ぶ、M&Aは、合併に寄るシナジー効果や非効率な経営の是正などにより企業価値を高めることを目的として行われる。

EVAによる業績評価
EVA(Economic Value Added : 経済付加価値)は、当期中に創造された企業価値を意味しており、税引後営業利益から資本の使用料を差し引いて計算する。企業価値経営の神道に伴って、業績を評価しインセンティブ報酬を決定する基準としてEVAが幅広く用いられるようになってきている。
※EVAは1980年代にスターン・スチュアート社が考案したもので、同社の登録商標。

財務レバレッジ
負債(D)を自己資本(E)で割った値(D/E、負債比率)を財務レバレッジと呼ぶ。財務レバレッジを高めると、負債の「テコの効果」により、株主の期待収益率が高まると同時にリスクも増大する。

資本構成と企業価値(MM理論)
モジリアーニとミラーは、税金や取引コストのない完全市場を前提とすると、企業価値はバランスシートの左側の資産価値のみによって決まり、右側の資本構成は企業価値と無関係であることを証明した(モジリアーニ=ミラーの第一命題)。

MM理論の現実的修正。法人税、倒産リスクの存在
法人税や倒産リスクが存在する世界では、MM理論は修正され、企業価値は企業の資本構成によって影響を受ける。理論的には、負債比率が上昇した時に、節税効果の現在価値の増加分が倒産リスクの現在価値の増加分に寄ってちょうど相殺されることろが最適資本構成となる。

配当政策と企業価値
配当性向を高めると企業価値が高まると伝統的に考えられていたが、モジリアーニとミラーは、完全市場を前提として、企業の配当政策は企業価値に影響を与えないことを証明した。最近では、キャピタルゲイン税制や株式発行コストなどを勘案して、低い配当性向が企業価値を高めるという見方も有力である。

自社株取得と企業価値
自社株取得とは、企業が自社の発行済株式を買い戻すことを言う。自社株を取得すると、発行株式数の減少による受給の引き締まりから株価が上昇するという見方もあるが、効率的な市場を前提とすると、理論的には自社株の取得は株価に影響を与えない。

株式の基礎
会社の持分を細分化したものを株式と呼ぶ。株主は会社のオーナーであり、株主総会における議決権や配当請求権を持つが、その責任は株式を購入する際に梁ライコンだ金額に限定されている(株主の有限責任制度)。

株式の投資尺度
株式は、ハイリスク・ハイリターンの金融商品である。市場の株価が割高か割安かを評価する尺度として、PER(株価収益率)、PBR(株価純資産倍率)、配当利回り、ROE(株主資本利益率)など、さまざまな指標が利用されている。

株式の取引
株式を公開するには、証券取引所に上場する方法と、日本証券業協会が管理する店頭市場(JASDAQ市場)に登録する方法がある。日本では主要な株式は証券取引所に上場されており、取引所取引のウェイトが高い。株式の取引には現物取引と信用取引がある。

株価の決定に関する理論
株価は理論的には将来の配当の割引現在価値を合計した金額と等しくなる(配当割引モデル)。ただし、将来の企業収益や配当、金利を予想することは難しいため、短期的には投資家の思惑によって不規則に動くことが多い。

債権の基礎
債権は元本返済の満期と利払いがあらかじめ定められている有価証券である。債権は発行者が債務不履行にならない限り、将来のキャッシュフローが確定しているため、確定利付証券()とも呼ばれている。債権保有者は株主とは異なり、発行企業の経営に参加する権利を持たない。

債券価格の決定理論
債券価格は、将来のキャッシュフロー(元利金の受取り)の割引現在価値の合計と等しくなる。債券価格と利回りの関係を見ると、一方が大きくなると他方が小さくなるという、負の相関関係がある。

金利の期間構造
長期金利と短期金利の間に裁定が働き、投資家がリスク中立的であれば、長期金利は現在と将来の短期金利の幾何平均と等しくなる(純粋期待仮説)。実際には、投資家はリスク回避的なため長期金利にはリスクプレミアムが上乗せされ、イールドカーブは右上がりになることが多い(流動性プレミアム仮説)。

債権の価格変動リスク
債権の平均的な回収期間をあらわす概念としてデュレーションがある。デュレーションは金利変動に応じた債券価格の感応度の指標として用いられる(金利が1%上昇すると、債券価格はほぼデュレーションと等しい率だけ低下する)。

債券の信用リスク
債権の金利は、デフォルトすることのない無リスク債権の金利(リスクフリー・レート)に、信用リスクなどに応じた超過金利(リスクプレミアム)を加えた水準に決まる。投資家が個々の債権の信用リスクを判定するに当たっては、格付会社が付与する格付けが重要な役割を果たしている。

資産流動化
資産流動化(または証券化)とは、企業が保有する資産を特別の会社(SPV)に譲渡し、SPVがその資産から生ずるキャッシュフローを裏付けとして、資産担保証券(ABS)を投資家向けに発行することにより資金を調達するスキームのことをいう。
SPV : Special Purpose Vehicle

デリバティブの基本概念
デリバティブとは既存の金融証券や指数などから導き出された二次的な金融派生商品のことを言う。デリバティブには多くの種類があるが、大きく分けると、「先物」「スワップ」「オプション」の3種類に分類できる。

先物取引の仕組み
先物取引とは、証券や商品をあらかじめ契約した価格で、将来の特定時点に引き渡す契約のことを言う。もともとは農産物や商品の価格変動リスクをヘッジするための手段として発達してきたが、登記や裁定の目的でも利用されている。

先物取引と先渡し取引
広義の先物取引には先物取引と先渡取引がある。先物取引は取引所で、先渡し取引は相対で取引される。先物価格は先行きの価格見通しではなく、基本的には現物価格と金利により決まる。

スワップ取引
性格の異なるキャッシュフローを当事者間で交換する取引をスワップ取引と言う。金利変動リスクを回避するために固定金利と変動金利を交換する金利スワップや、為替リスクを回避するために異なる通貨建てのキャッシュフローを交換する通貨スワップなどが代表的な例である。

スワップ取引の経済効果とコスト
スワップ取引の経済効果としては、リスクの削減、市場の歪みの是正、資本効率性などが挙げられる。スワップ取引実行時点では、スワップ取引で交換されるキャッシュフローは等価であるが、その後、金利水準や為替レートが変化するに連れて等価ではなくなってくる。

オプション取引の基本
将来の一定期日(または一定期間内)に、あらかじめ定められた価格(行使価格)で証券などを買う権利をコール・オプション、売る権利をプット・オプションと呼ぶ。オプションの権利者は利益を得られる場合にのみオプションを行使すればよい。オプションの対価をオプション・プレミアムと呼ぶ。

オプション取引の利用方法
オプション取引は、リスクヘッジ、投機、裁定の目的で利用される。オプション取引と現物取引、先物取引を組み合わせることに寄って、個別の投資家のニーズに合った多様なポジションをカスタム・メイド的に作ることができる。

オプションの価値
オプションの価値は、本源的価値と時間価値に分けることができる。オプションの価値を算出するモデルには、資産価格が2通りしか変化しないことを前提とした2項モデルとそれを一般化したブラック・ショールズの公式がある。

リアルオプション
金融資産を原資産とするオプションをファイナンシャル・オプションと呼ぶのに対して、実物資産を原資産とするオプションをリアル・オプションと呼ぶ。企業価値を評価する際にリアルオプションを利用すると、NPV(賞味純資産)法では捉えられない、意思決定の柔軟性が持つ価値を評価することできる。

クレジット・デリバティブ
クレジット・デリバティブとは、貸出債権や社債の信用リスクをスワップやオプションの形で売買する取引のことをいう。経済的な効果は保証と同じであるが、デリバティブの形をとっているため市場で売買することができる。

エージェンシー・コスト
ある経済主体(代理人、エージェント)が他の経済主体(本人、プリンシパル)からの委託を受けて行動するときには、代理人が誠実に行動しないことによるコストや代理人を監視(モニタリング)するコストが生じる。こうしたコストをエージェント・コストと呼ぶ。

ジャンク債(ハイイールド債)
ジャンク債とは格付けが低く満期までに債務不履行となるリスクが大きい債券のことをいう。ジャンク債は信用リスクが大きい分、利回りが高くなっているため、ハイイールド債と呼ばれることもある。

バリュー・アット・リスク(VaR)
一定の確率を前提として、ある資産を一定期間保有することにより発生しうる最大の損失額をバリュー・アット・リスク(VaR)と呼ぶ。投資家は保有する全ての金融資産のリスクをVaRという単一の指標に寄って一元的に管理することができる。

TOB、LBO、MBO
TOBは企業の経営権を取得する目的で、不特定多数の株主から時価を上回る価格で株式を買い集める手法(株式公開買付け)を言う。LBOは、多額の借入や債券発行によって調達した負債性の資金をもとに企業を買収する手法を言う。MBOは企業の経営陣や従業員が、金融機関やベンチャー・ファンドから調達した資金で自社の株式を買取り、企業の経営支配権を取得する手法を言う。

天候デリバティブ
天候デリバティブは、冷夏や暖冬などの気候変動や台風の通貨などによる企業収益の下振れリスクをヘッジする目的で利用されている。デリバティブという名称が付いているが、実質的には掛け捨て型の天候保険と見ることもできる。同様の機能を果たすものとして地震デリバティブがある。

デルタヘッジ
ある資産価格が変動するに連れて他の資産価格が変動するとき、両者の変動幅の比率をデルタ(δ)またはヘッジレシオと呼ぶ。オプションの価格は原資さんの価格が変動するに連れて変動するが、その変動幅の比率をオプション・デルタと呼ぶ。

ヘッジ・ファンド
少数の裕福な個人投資家や機関投資家から大口の資金を集めて、ハイリスク・ハイリターンの投資を行う投機的な投資信託をヘッジファンドと呼ぶ。ヘッジファンドは市場に強い影響力を持っているほか、破綻時の影響が大きいこともあって、その規制やディスクロージャーのあり方が議論されている。

自己資本比率規制
国際的に活動する銀行は、リスクアセット(信用リスク加重資産額)に対して、裁定8%の自己資本比率を維持することが義務付けられている。こうした規制は「自己資本に関するバーゼル合意」または「BIS規制」と呼ばれている。金融機関を取り巻く環境変化やリスク管理手法の進展を踏まえて、現行の「BIS規制」を全面的に見直す作業が進められている。

行動ファイナンス
行動ファイナンスは「生身の人間である投資家は、認識・判断能力の限界や心理的葛藤によってしばしば合理性を欠く判断をする」ことを前提として、伝統的なファイナンス理論を修正する理論である。